関節リウマチの症状
関節リウマチの症状は関節症状と関節外症状に分けることができます。
関節症状
関節炎、朝の手のこわばりが主症状です。関節炎とは、関節痛、関節の腫脹・発赤・熱感・機能障害を伴うものをいいます。関節炎の部位として、手足の指、手関節などの小関節が多く、肘、肩、膝、足関節などにもみられます。多くは左右対称性に関節炎が見られますが、右、あるいは左と片側のみに認められることがあります。初期には1個あるいは少数の関節のみに症状が見られますが、進行とともに複数の関節に症状を認められてきます。手指の関節炎としては第2関節(PIP関節)、第3関節(MP関節)が冒されることが多く、第1関節(DIP 関節)に関節症状が出る事は稀です。第1関節が冒される病気としては変形性関節症、乾癬性関節炎があります。関節の腫脹は関節の中心が一番膨らんだ状態の紡錘形となります。手指全体が腫れた感じ(Swollen hand)は、混合性結合組織病、全身性強皮症、RS3PE症候群などで見られます。
朝の手のこわばりは「朝起きた時に手を握っても指先(爪の先)が手のひらにつかない状態」をいいます。朝の手のこわばりは変形性関節症でも見られますが、関節リウマチの場合、30分以上続くことが特徴です。
関節病変が進行すると、手指や足趾の変形を認めます。手指ではマレット変形、尺側偏位、スワンネック変形、ボタン穴変形、親指のZ状変形、オペラグラスハンド、足趾では外反母趾、つち趾(指)、重複趾(指)などが知られています。また、手指の腱鞘炎によるばね指も見られることがあります。
膝関節腔に貯留した関節液が膝の裏からふくらはぎにかけてあふれ出して腫れた状態をBaker's cystと呼びます。蜂窩織炎や静脈炎と間違われる事があります。
関節リウマチは滑膜に炎症が起こる病気ですので、滑膜の多い関節(手指関節、手・肘・肩関節や膝・足関節、足趾の関節など)に症状が出ます。一方、背椎(頚椎・胸椎・腰椎)の椎間板関節などは滑膜がないため、関節炎がほとんどおきません。したがって、関節リウマチによる腰痛は稀です。ただし、環椎(第1頚椎)と軸椎(第2頚椎)は首を回す働きがあるため、滑膜が存在し、関節リウマチによる炎症が生じます。環軸椎の炎症が進行すると環軸椎亜脱臼を起こし、前屈時の後頚部痛が認められます。
関節外症状(関節外症状の病因に関してはこちらを参照してください)
関節リウマチ自体は全身性疾患と考えた方が良く、ほぼすべての臓器系に影響を及ぼします。全身倦怠感や微熱、食欲低下などの全身症状の他に、皮膚や眼の症状、心血管疾患、呼吸器疾患、血液学的異常、リウマチ性血管炎、神経学的症状、アミロイドーシス、肝臓や腎臓の障害などを来たします。ある研究では、関節リウマチ患者の約40%に関節外症状が認められると報告されています。また、関節リウマチの罹病期間が長いほど、関節外病変の合併率が高くなっています【文献2)】。
【文献2)】
重要なのは、関節外症状が関節リウマチ患者の予後に大きく影響するという事です。関節外病変を伴う関節リウマチ患者の死亡率は関節外症状のない関節リウマチ患者に比べ、死亡率が3倍高いという報告があります【文献2)】。関節リウマチでは、リウマチ因子(RF)、抗シトルリン化抗体(antibodies to citrullinated protein antigen:ACPA)などの自己抗体が認められますが、RF陽性関節リウマチ患者では、関節外症状、特にリウマチ結節、血管炎、フェルティ症候群、漿膜炎を合併する可能性が高くなります。
1. 心血管疾患
関節リウマチ患者では、冠動脈疾患や心不全の発生率が高いことを示されています。メタ分析では、関節リウマチ患者は一般集団と比較して心血管疾患の発症リスクが48%増加し、心血管疾患による死亡率は約52%増加することが示されています。症状としては、非関節リウマチ患者と同様な胸痛、胸部圧迫感、息切れ、浮腫などです。剖検例では30%の高率で、心膜炎が認められると報告されていますが、無症状の事が多く(あるとすれば胸痛、発熱など)、心エコーで偶然発見される事があります。
2. 呼吸器合併症
関節リウマチの呼吸器症状は最も一般的な関節外症状の1つで、呼吸器症状は通常、関節症状の後に発生しますが、関節炎よりも何年も前に発生することもあります。関節リウマチに伴う呼吸器合併症としては、間質性肺炎、気管支拡張症、細気管支炎、胸膜炎、肺結節、カプラン症候群(関節リウマチに伴う塵肺症で、肺末梢に多発性結節が発生することを特徴とする稀な疾患です)などがあります。症状としては、咳(痰を伴う場合と伴わない場合があります)、息切れ、胸痛などです。ただし、胸部X線やCT検査で偶然発見される無症状の呼吸器合併症もあります。
2.1. 間質性肺炎
間質性肺炎は関節リウマチの肺症状の中で最も一般的で、関節リウマチ患者の30~60%でその兆候が報告されています。しかし、間質性肺炎は一般的に無症状であり、ある研究では、間質性肺炎合併関節リウマチ患者の76%に明らかな症状が見られなかったことが示されています。症状がある場合は、痰を伴わない咳、息切れなどが見られます。さらに、間質性肺炎の合併は関節リウマチの活動性と密接に関連しており、活動性が高い関節リウマチ患者の間質性肺炎の合併率は活動性の低い関節リウマチ患者の2.2倍高いと報告されています。関節リウマチにおける間質性肺炎は、通常型間質性肺炎 (UIP)および非特異性間質性肺炎(NSIP)のパターンで主に発現するほか、頻度は低いですが、器質化肺炎、リンパ性間質性肺炎、びまん性肺胞障害などのパターンでも発現します。
2.2. 気管支拡張症
気管支拡張症は、高感度胸部CT検査によって関節リウマチ患者の25-40%に発見されています。典型的な気管支拡張症の症状は、連日の咳、膿性痰です。しかし、必ずしも臨床症状を伴うわけではありません。間質性肺炎と同様に、気管支拡張症の合併は関節リウマチの活動性とに関連しています。
2.3. 細気管支炎
関節リウマチにおける細気管支炎の頻度は高感度胸部CT検査を用いて検討した結果では8-17%と報告されています。細気管支炎が進行すると呼吸不全を起こす事があります。
2.4. 胸膜炎
関節リウマチに伴う胸膜炎は自覚症状に乏しく、胸部X線ではじめて気づかれる事が多いですが、胸痛や発熱が見られることがあります。胸水は通常は滲出性で、グルコース・補体は低値で、タンパク質は高値であり、リウマチ因子および免疫複合体を含みます。
3. リウマチ結節
通常、リウマチ結節は伸筋表面または繰り返し圧迫や外傷を受けた皮膚に現れます。合併頻度は20-25%で、好発部位は肘頭、前腕伸側部、アキレス腱、後頭部、脛骨前面などです。リウマチ結節は可動性あるいは骨膜固着性の無痛性の弾性硬で0.5-2cm大の円形もしくは楕円形の腫瘤として触知されます。リウマチ結節は皮膚以外の場所、肺、胸膜、心、腸肝など内臓病変に現れることもあります。
4. 神経系障害
関節リウマチにおける神経系の障害には、絞扼性神経障害、リウマチ性血管炎による虚血性神経障害(単神経炎、多発性単神経炎、多巣性感覚運動神経障害など)、頚椎障害(環軸椎亜脱臼、脳底陥入)、リウマチ性髄膜炎などがあります。環軸椎亜脱臼による神経障害が進むと、脊髄、神経根、椎骨動脈などの圧迫を引き起こす可能性があります。末梢神経の圧迫障害は、末梢神経(最も多くは正中神経で、手根管症候群【第1-3指のしびれ】の原因となる)の圧迫、腱鞘炎による隣接腱の腫脹、または関節滑膜の炎症によって引き起こされます。
5. 眼病変
関節リウマチ患者の約18%に眼への影響が認められます。乾性角結膜炎、上強膜炎、強膜炎、周辺性潰瘍性角膜炎、前部ぶどう膜炎などが認められます。乾性角結膜炎に口腔乾燥などを伴う場合はシェーグレン症候群の合併を疑います。上強膜炎は、上強膜組織の表層血管の非肉芽腫性炎症で、角膜周囲の直径数mm大の暗赤色の隆起性病変で周囲に充血を伴います。症状としては眼の違和感、充血などです。上強膜炎は結膜と強膜の間の薄い組織の層の炎症を指すのに対し、強膜炎は強膜全体に影響を及ぼすより重篤な状態で、胸膜の広範な壊死、続発性ぶどう膜炎、角膜炎、緑内障などを惹起し、重篤な視力障害を残す事があります。強膜炎の症状は著明な充血と眼痛です。周辺性潰瘍性角膜炎は角膜の周囲部に潰瘍が生じる病態で、視力低下、羞明感、異物感を自覚します。
【上強膜炎】
【周辺性潰瘍性角膜炎】
6. 血液学的異常
関節リウマチでは、貧血、好中球減少症(特にフェルティ症候群の場合、脾腫を合併)、血小板減少症、血小板増多症、好酸球増多症、造血悪性腫瘍など、さまざまな血液学的異常が現れることがあります。活動性疾患ではリンパ節腫脹も見られ、病理組織学的には良性濾胞性過形成を呈します。貧血と血小板増多症はどちらも疾患活動性と相関関係にあります。貧血は正球性低色素性貧血で、血清鉄濃度の減少を伴います。
7. 骨粗鬆症
骨粗鬆症は晩期の関節リウマチ患者においてほとんど必発の症候です。関節リウマチは、罹患関節局所、関節近傍、全身のいずれにおいても骨量減少を引き起こす可能性があります。骨粗鬆症が進行すると背椎の圧迫骨折、大腿骨頚部骨折、前腕の骨折などを引き起こします。
8. リウマチ性血管炎
リウマチ性血管炎は、関節リウマチのまれな関節外症状の1つであり、さまざまな臓器の中小血管に影響を及ぼします。最も一般的には皮膚に爪郭梗塞、紫斑、指虚血、網状皮斑などを引き起こしたり、末梢神経障害を起こしたりします。症状としては、発熱、上強膜炎、強膜炎、心筋炎、下腿潰瘍、指趾末端の潰瘍・壊死、末梢神経炎(多発性単神経炎)、腸間膜動脈梗塞など多彩です。「悪性関節リウマチ」とよばれ指定難病は日本でのみ採用されている病名で、海外ではリウマチ性血管炎に相当します。
9. アミロイドーシス
関節リウマチが長期間続くことにより、炎症物質であるアミロイドA タンパクが腎臓や消化管、心臓などに沈着することがあります。そのため、蛋白尿を認めたり、食思不振や腹部膨満、下痢、心不全などを認めることがあります。
10. 腎病変
関節リウマチにおける腎症状(蛋白尿、血尿)はまれであり、特に関節リウマチ治療の最近の進歩により疾患コントロールが改善され、関節リウマチ患者のアミロイドーシスの発生率がさらに低下してきています。関節リウマチ患者の腎生検で最も一般的な組織学的所見は、メサンギウム糸球体腎炎、膜性腎症、および二次性アミロイドーシスです。
文献
1)Pathogenesis of Extraarticular Manifestations in Rheumatoid Arthritis-A Comprehensive Review. Biomedicines 2023, 11, 1262.
https://doi.org/10.3390/biomedicines11051262
2)Incidence and predisposing factors of extra-articular manifestations in contemporary rheumatoid arthritis. European J Internal Medicine 2024. https://doi.org/10.1016/j.ejim.2024.04.026
3)炎症性疾患に対する生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き 第2版、2020年 日本呼吸器学会編
4)ベッドサイドリウマチ学、1994年 山本真、柏崎禎夫 編 南江堂
<<2024年9月26日作成>>
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