後藤内科医院、リウマチ科、内科

メトトレキサート

メトトレキサート(methotrexate:MTX)

 

MTX(商品名、リウマトレックスカプセル、メトトレキサート錠など)は、関節リウマチの治療では世界中で最もよく使用される内服薬です。MTXは、免疫抑制作用を持つ抗リウマチ薬で、関節リウマチと診断されたらまず最初に使うべき薬剤の1 つです。MTXには、直接痛みを抑える作用はないので、服用後すぐに関節痛が楽になるわけではありません。ただ、服用後2週~4週程度で関節症状が改善していきます。

MTXは、葉酸の構造を2カ所変えただけの物質で、葉酸の核酸合成能を阻害するため、葉酸代謝拮抗薬と呼ばれます。MTXは、プリン代謝(DNA合成)、アミノ酸代謝を阻害し、白血病や乳がんなど幅広い悪性腫瘍に対し抗腫瘍効果を有しています。1947年Farberらがアメリカン・サイアナミッド社レダリー研究所で合成されたアミノプテリンが、小児白血病に対して効果を示しました。次いでアミノプテリンの誘導体が作られ、その中から悪性絨毛上皮腫に効果を示すMTXが見出されました。1951年Gubnerらは乾癬や関節リウマチに対し、アミノプテリンの効果を最初に報告しましたが、強い副作用がみられたため、広く普及しませんでした。1964年にBlackらは初めて関節リウマチに対し、MTXの使用例を報告し、1970-80年代に多くの臨床試験が行われ、米国では1988年に関節リウマチ治療薬として認可されました。日本では1999年から保険適応となりました。

 

また、日本リウマチ学会からのパンフレットもダウンロードできます。2023年9月【関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版】の内容を付け加えました。

 

MTXの細胞内薬理作用

細胞内に入ったMTXは、葉酸拮抗剤としてジヒドロ葉酸レダクターゼと強固に結合して、ジヒドロ葉酸のテトラヒドロ葉酸への還元を阻害します。関節炎の原因となっている滑膜細胞やリンパ球は、関節内でさかんに細胞増殖をしています。MTXにより細胞増殖に不可欠な葉酸の働きが抑えられると、炎症細胞は減ってきて、関節炎が治まってくると考えられています。

細胞内の遊離MTXは代謝されて、末端のグルタミン酸が連鎖的に付加されてMTX-ポリグルタミン酸(MTX-polyglutamates)になります。このMTX-ポリグルタミン酸は、細胞内に長く留まり、ジヒドロ葉酸レダクターゼの作用を長く阻止し、滑膜細胞やリンパ球などのDNA合成を阻害します。後述しますが、これがMTXを週1-3回内服するだけで効果が1週間続く理由です。尚、喫煙はMTXのポリグルタミン酸化を抑制することが知られています。

 

 

最近MTXは葉酸拮抗作用の他にJAK1のリン酸化を阻害することで、基質であるSTAT1,5のリン酸化を阻害することが報告されました。この作用は葉酸でブロックされないことがわかっています。

 

MTXの効果

関節リウマチ患者さんの5-6 割くらいに、関節の痛みや腫れが軽くなる効果がみられ(ACR20)、2割くらいの患者さんは、ほぼ完全に関節痛や腫脹がなくなる状態(寛解状態)になります。寛解状態になった患者さんでは、関節の破壊が完全に止まり、こわれた骨の修復がみられる場合もあります。
当然、生活の質も改善し、寿命にも良い影響があることが報告されています。米国の関節リウマチ患者 22,545例を1998から2005年まで死亡率を追跡した所、MTXを服用していない患者さんの死亡危険率を1とすると、MTX投与患者では危険率が0.84に低下していました(Michaud K, Wolfe F. Arthritis Rheum (2005) 52: S145.)。

 

投与前検査、定期検査

MTX内服中には、副作用として肝機能障害、白血球減少、貧血、血小板減少が見られることがありますので、投与前に血液検査が必要です。また、腎機能障害があると、MTXが体内に残りやすくなるので、腎機能(クレアチニン、尿素窒素)も事前にチェックします。また、MTX投与後にも、副作用を早期に見つけるために定期的に血液・尿検査、胸部X線検査を施行します。

 

 

B型肝炎のキャリアにMTX投与などの免疫抑制療法を施行すると、治療中または終了後に、致死的な重症肝炎を発症する場合があります。一方,臨床的には治癒状態と考えられていたB型肝炎の既往感染例においても、強力な免疫抑制療法に伴って、キャリア発症例と同様に肝炎を発症する場合があることが注目を集めています。このような形で発症したB 型肝炎は劇症化する頻度が高率で、一旦劇症化すると極めて生命予後が不良です。そこで、MTX投与前に、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体(場合によっては、HBV-DNA量)をチェックします。また、同時にC型肝炎の抗体も検査します。

 

日本は先進諸国の中では結核の患者が多い国です。結核既往(過去に結核に感染したが現在はほぼ治癒の状態)患者にMTXなどの免疫抑制剤を投与すると結核が再燃する危険性があります。そこで結核の既往をチェックするためにツベルクリン反応、結核菌インターフェロンγ遊離試験、胸部X線(場合によっては胸部CT)の検査を行います。検査で陽性の(結核既往があり再燃の危険性がある)の患者さんには、予防投与とて、イソニアジド 300mgを、MTX投与4週間から内服開始していただき、6~9ヶ月間投与を継続していただきます。MTXによる副作用である間質性肺炎は肺疾患がもともとある患者さんに生じやすいので、MTX投与前に胸部X線(場合によっては胸部CT)を撮る必要があります。

 

MTXの初期投与量

 

 

日本では、関節リウマチに対するMTXの至適用量検討試験は、2mg/週、6mg/週、9mg/週が葉酸非併用の下で比較され、2mg/週の効果は低く、また9mg/週は6mg/週に比べてやや指標の改善がよかったが有意差はなく、白血球減少や肝酵素上昇の頻度がやや多かったことから開始時投与量(6mg)が決まりました(炎症 1996;16;437-458)。

日本でもMTX投与量が多ければ多い程、関節リウマチに対する有効性が確認されました。

 

 

 


MTXは原則、経口投与では、6~8mg/週で開始します。開始時投与量は副作用危険因子や疾患活動性、予後不良因子を考慮して決定します。特に、予後不良因子をもつ非高齢者では、8mg/週で開始することが勧められます。

 

MTXの増量・最大投与量

MTXの増量・最大投与量に関しても、海外のデータをそのまま日本に適応できません。

海外での推奨 【関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版】

2008年のMTX投与に関する海外の推奨では、増量の判断をする時期は、投与開始6週間後と定めていました。一方、T2T戦略では、4週ごとにRA疾患活動性を評価し治療を強化することが推奨されています。

 

最近の海外の推奨では、効果不十分であれば、安全性を考慮しながら20~30mg/週までの急速増量が勧められています。ただし、アジア人種に限り投与開始後8週までに最大投与量12.5mgまたは15mg/週に増量するプロトコールで行われていることが多いです。

 


有害事象は両群で差がありませんでした。

 


ただし、インドで行われた臨床試験では急速増量と通常増量の間に有効性の差は見られませんでした。

 

日本での推奨 【関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版】


MTX治療開始後、4週間経過しても治療目標に達しない場合は増量します。通常、経口投与の増量は1回に2mgずつ行います。高疾患活動性、予後不良因子をもつ非高齢者では、2週ごとに2mg、あるいは4週ごとに4mgずつ迅速に増量しても大丈夫です。副作用危険因子がなく、忍容性に問題なければ、経口投与では、10~12mg/週まで増量します。効果が不十分であれば最大16mg/週まで漸増することができますが、他のcsDMARDs、生物学的製剤やJAK阻害薬の併用を考慮しても大丈夫です。最大投与量は16mg/週ですが、日本の推奨としては、増量の際の目標とする用量は10~12mg/週としました。

 


ちなみに、C-OPERA試験では8mg/週で経口投与を開始し、4週ごとに4mg増量し、治療開始8週後には最大用量の16mg/週まで増量するプロトコールが用いられました。

 

MTXの飲み方(用法)

MTXは、毎日内服する薬ではないので要注意です。主治医、薬剤師の指示通り内服してください。1週間のうち1日か2日(たとえば、日曜日と月曜日)を内服する日を決めて、残りの日(たとえば、火曜日~土曜日)は内服しません。1週間あたりの内服量は、4mg~16mg、すなわち2~8錠(または2~8カプセル)となります。飲み方の具体例を下記に示します。【関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版】では副作用対策として、全例に葉酸を内服することを推奨しています。

 

<1日で飲む場合(日曜日に内服するケース)>

 
MTX

朝   夕
内服  内服

           
葉酸   夕 内服 または 朝 内服        

<2日に分けて飲む場合(日・月曜日に内服するケース)>

 
MTX

朝   夕
内服  内服

朝   
内服

         
葉酸     夕 内服 または 朝 内服      

 

簡単に言えば、MTXの飲み方は1回でも2回でも3回でもよいという事


経口投与においてはMTX 8mg/週以下の用量では生物学的利用能の観点からも原則単回投与が適切ですが、12時間ごとの1日2回分割投与あるいは初日から2日目にかけての3回分割投与でも大丈夫です。ちなみに、分割投与法は乾癬の治療で行われていた方法を関節リウマチの治療に利用したものです(MTX使いこなし自由自在 2012年 南山堂、p16)。MTX 10~16mg/週の用量では、単回または12時間ごとに2~3回分割投与します。一方、高用量を単回投与した場合は、嘔気などの消化器症状の発現が問題になることがあります。したがって、MTX 8mg/週を超えて経口投与する際は、分割投与する方が、単回投与よりも生物学的利用能が高く、消化器症状を抑制できる可能性があります。ただし、本邦において単回投与と分割投与の生物学的利用能を比較した成績はありません。

 

MTXを飲み忘れた場合

万が一MTXを飲み忘れた場合は、その飲み忘れた分のMTXは服用しないで翌回分から指示通りに飲むようにしてください。たとえば、日曜日朝 2mg、夕2mg、月曜日朝2mg内服する患者さんが、日曜日の朝の分を飲み忘れた場合は、日曜日の夕の分から内服してください。夕に4mg内服するということはやめてください。不明な時は、主治医もしくは薬剤師に相談してください。次回診察時に、飲み忘れたことを必ず主治医に伝えてください。

 

薬や嗜好物との相互作用

下記に示す薬との飲み合わせによっては、MTXの作用が強まり、副作用がでやすくなることがあります。服用中の薬は必ず主治医に報告してください。また、別の病院で診察を受けるときも、MTXを内服していることを伝えてください。
1)作用を増強する薬剤として、利尿剤(ラシックス等)、鎮痛薬(NSAIDs:ロキソニン、ボルタレンなど)や抗生物質、抗菌薬、ST合剤(バクタ)、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、フェノバルビタール(フェノバール)、プロベネシド(ベネシッド)、レフルノミド(アラバ)、プロトンポンプ阻害薬(オメプラール、オメプラゾン、タケプロン、パリエット、ネキシウム等)などがあります。
2)生ワクチンの予防接種は避けてください。
3)アルコールはMTXによる肝臓の副作用を起こしやすくします。飲酒は、できるだけ控えましょう。
4)喫煙により、細菌性肺炎、間質性肺炎などの肺の副作用がでやすくなります。また、喫煙によりMTXの効果の減弱が報告されています。禁煙しましょう。

 

MTXの副作用

多くは軽症の消化器症状で、食欲不振、吐気、嘔吐、口内炎などです。次に重要な副作用について述べます。下記の症状が出現した時は、自己判断せずに、主治医や薬剤師に相談したり、医療機関に受診したりしてください。

症状 疑われる副作用
38℃以上の高熱    感染症、間質性肺炎
以前にはなかった咳や息苦しさ   さまざまな肺炎、間質性肺炎
咳や痰がなかなか良くならない。微熱が持続する。 結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症
食事がとれないほどの口内のただれ   骨髄抑制
からだ中に青あざができるなど出血しやすい傾向がある 骨髄抑制

原因がはっきりしない皮膚の症状や首のまわり・脇の下のしこりが持続する。寝汗をかく。

感染症、リンパ腫

 

骨髄抑制

MTXが骨髄の細胞の増殖を強く抑えすぎると、白血球、血小板、赤血球が減少することがあります。白血球が減少すると、感染症(肺炎、尿路感染症など)を発症することがあります。症状としては、咳・痰、発熱、のどの痛み、倦怠感、頻尿、排尿時痛などです。血小板減少では、出血が止まりにくくなるため、手足の出血(皮下出血、青あざ)や歯肉出血、鼻出血などの症状がでることがあります。赤血球減少(貧血)では、倦怠感、動悸、立ちくらみなどが見られます。

 

間質性肺炎

痰のからまない空咳、息切れ、呼吸困難感、発熱などの症状が出現することがあります。放置すると重症化する危険性があります。

 

感染症

肺炎、肺結核、尿路感染症、皮膚(帯状疱疹など)や化膿性関節炎などの感染症がおきることがあります。肺の感染症としては細菌性肺炎、ニューモシスチス肺炎(カビの一種による肺炎)、ウイルス性肺炎のほか、肺結核、非結核性抗酸菌症、肺真菌症(アスペルギルスなどのかび)があります。

 

肝機能障害

軽度の肝機能障害のときは、自覚症状はありませんが、倦怠感や嘔気が見られることがあります。まれに、B型肝炎の再活性化がおこることがあります。
FIB-4 index:血液生化学的検査データ(ALT、AST、血小板数)を用いた肝線維化予測値でメトトレキサート(MTX)による肝線維化の推測にも有用。
算出方法
(年齢×AST)/(血小板数[1000/μL]×(ALT)1/2)
https://medical.eisai.jp/ea/disease/hepatopathy/fib-4/calculator.html

 

リンパ節腫脹

リンパ腫を合併することがあります。MTX中止により自然に軽快する例もありますが、化学療法(抗がん剤の投与)などが必要な場合もあります。急に首や脇の下のリンパ節が腫れ、同時に、熱がでたり、寝汗をかいたり、やせてくる場合は要注意です。

 

MTXと妊娠・授乳

男女ともに内服中・内服中止後3ヵ月は妊娠を避けましょう。MTXにより流産や奇形が誘発されやすいことが知られており、男女とも妊娠を希望する少なくとも3ヵ月前にはMTXを中止してください。また、MTXは乳汁中に分泌されるため、授乳中はMTXを内服しないようにします。

 

葉酸

MTXの副作用を防ぐために処方されます
1)MTXによる消化器症状、口内炎、白血球減少、肝機能障害は葉酸併用により発現率が減少します。
2)MTX最終服用後24-48時間あけて、葉酸(商品名 フォリアミン)5mgを投与しています。
3)【関節リウマチにおけるメトトレキサート(MTX)使用と診療の手引き 2023年版】では副作用対策として、全例に葉酸を内服することを推奨しています。

 

手術や抜歯を受ける時

手術や抜歯を受ける場合にはあらかじめ主治医に相談しましょう。MTX内服により、手術後の感染症を起こしやすくなったり、抜歯後に菌血症(歯を抜いた部位から歯の周囲の細菌が血液中に入り、全身に回る状態)を起こす危険性があります。

 

メトトレキサート皮下注製剤

2022年11月16日日本でもメトトレキサート皮下注(商品名メトジェクト)が新発売されました。
メトジェクト皮下注 7.5mg
メトジェクト皮下注 10mg
メトジェクト皮下注 12.5mg
メトジェクト皮下注 15mg
自己注射製剤です。
詳細はこちらに。

 

 

 

 

日本でのMTX皮下注製剤と経口製剤との比較試験

 

 

 

このページは主に日本リウマチ学会が作成したパンフレット「メトトレキサートを服用する患者さんへ」を参照しています。

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