後藤内科医院、リウマチ科、内科

シェーグレン症候群のEULAR recommendations

シェーグレン症候群の診療に関するEULAR recommendations


 2020年に発表されたシェーグレン症候群の診療に関するEULAR recommendations(推奨)についてまとめてみた。ただし、この論文中にも記載されているが、関節リウマチや乾癬性関節炎と異なって、シェーグレン症候群には有効な疾患修飾性薬剤がまだ存在せず、二重盲検試験で確認された有効な薬剤も少ないという事を頭に入れて読み進めていただきたい。

 


 シェーグレン症候群の診療に関するEULAR recommendations(推奨)は全般的な推奨3項目と個別の推奨12項目から成り立っている。

 

全般的な推奨

A.シェーグレン症候群は多彩な症状を有する事から、シェーグレン症候群の患者はシェーグレン症候群を専門とする医師・医療スタッフに、密接に管理してもらうべきである。
B.乾燥症状に対する最初の治療アプローチは、局所対症療法から始めるべきである。
C.活動性のある全身病変に対しては、全身療法を考慮しても良い。

 

個別の推奨

口腔乾燥

1.口腔乾燥の治療を開始する前に、唾液腺機能の評価を推奨する。
2.唾液腺機能の重症度によって、口腔乾燥に対する初期治療は以下のごとくにすべきである:
2.1. 軽度の機能不全の場合、非薬物学的刺激で唾液分泌を促す。
2.2. 中等度の機能不全の場合、薬物療法を開始する。
2.3. 重度の機能不全の場合、唾液代用品を試してみる。

STEP1
 他の口渇を来たす疾患を除外後、無刺激状態の唾液分泌量(UWSF)を測定する。UWSFが<0.1mL/min未満であれば、刺激下での唾液分泌量(SWSF)を測定する。軽症(>0.7mL/min)、中等症(0.1-0.7mL/min)、重症(<0.1mL/min)に分類する。
STEP2
 軽症例では非薬物療法(糖不含の酸っぱい飴、トローチ、キシリトール、糖不含のガムなど)で加療を開始し、効果不十分の場合、薬物療法を併用する。中等症では、非薬物療法と薬物療法を併用する。ピロカルピン【商品名:サラジェン】、セビメリン【商品名:サリグレン】の投与が推奨されている。副作用(発汗など)の面ではピロカルピンよりセビメリンの方がやや少ないという報告もあった。副作用軽減のためには漸増投与法を推奨するエキスパートもいた。副作用で投与できない患者にはanetholtrithione、ブロムヘキシン【商品名:ビソルボン】、N-アセチルシステイン【商品名:ムコフィリン】(日本ではL-エチルシステイン【商品名】チスタニンやL-カルボシステイン【商品名】ムコダインでも代用可能と思われる)を試してみても良い。あるいは電気刺激療法もRescue therapiesとして候補に挙げられている(日本でもドライマウス治療用装置が開発されている)。口渇に対し、ヒドロキシクロロキン、経口副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、リツキシマブの投与は推奨しない。重症例には唾液代用品(商品名:サリベート、医薬外の口腔化粧品)を使用する。

 

ドライアイ

3.ドライアイの初期治療には人工涙液/眼軟膏の使用が含まれる。
4.難治性/重度のドライアイは、免疫抑制含有点眼薬および自家血清点眼薬を用いて管理可能である。

STEP1
 他のドライアイを来たす疾患を除外後、ドライアイの状態を評価する。OSS(ocular staining score:角膜<Fluorescein>と結膜<Lissamine green>を別々の染色法で染色し、点数化する方法)はシェーグレン症候群と他の乾燥性角結膜炎を鑑別するのに有用な検査法で、OSSが5以上であれば、シェーグレン症候群の可能性が高くなる。尚、OSSが1以下であれば、神経障害性疼痛を考慮すべきである。




                     Am J Ophthalmol. 2010;149:405?415
OSSが5以上で、OSDI(ocular surface disease index)が33以上であれば、重症角結膜炎と診断する。OSSが5以上で、OSDI33未満であっても、角膜の感受性が傷害されている場合は、重症角結膜炎と診断する。さらに、OSSが5未満で、OSDIが33以上で、さらに、重症度の追加基準:(①視覚機能障害(羞明、視力の変化、またはコントラストの感度の低下)、②眼瞼けいれん(眼の炎症に続発する)、③重度のマイボーム腺疾患または眼瞼炎)を認めた場合も、重症角結膜炎と診断する。

STEP2
 ドライアイで最初に使用するものは人工涙液【商品名:人工涙液マイティア】やヒアルロン酸【商品名:ヒアレインなど】・メチルセルロースを含む点眼液の使用である(日本では、ジクアホソルナトリウム点眼薬【商品名:ジクアス】やレバミピド点眼薬【商品名:ムコスタ】がドライアイに対し、保険適応がある)。ヒアルロン酸・メチルセルロースを含む点眼液を1日4回以上点眼する場合は防腐剤不含のものを使用すべきである。夜間には眼軟膏の使用が勧められている(日本では未発売)。
 人工涙液やヒアルロン酸・メチルセルロースを含む点眼液に抵抗性のドライアイ患者の場合は、角膜病変に精通した眼科医にコンサルトすべきである。眼科医は非ステロイド性消炎鎮痛剤点眼薬【商品名:ニフラン、ブロナック】や副腎皮質ステロイド点眼薬【商品名:フルメトロン、リンデロンなど】を処方するかもしれない。ただし、使用期間は2-4週以内にとどめるべきである。非ステロイド性消炎鎮痛剤点眼薬は角膜や強膜の融解、穿孔、潰瘍および重度の角膜障害)を起こす事があり、副腎皮質ステロイド点眼薬は感染、眼圧上昇、白内障の悪化を来たすことがある。2002年アメリカでは乾燥性角結膜炎に対し、シクロスポリン点眼薬【商品名:パピロックミニは日本では春季カタルのみに保険適応あり】が承認された。シクロスポリン点眼薬が効果不十分の場合は、自己血清点眼を試すように推奨されている(日本のガイドラインでは推奨されていない:下図参照)。Rescue therapiesとして、涙点プラグや経口ムスカリン受容体作動薬であるピロカルピン【商品名:サラジェン】、セビメリン【商品名:サリグレン】の投与が推奨されている。ドライアイに対し、ヒドロキシクロロキン、免疫抑制剤、リツキシマブの投与は推奨しない。
 ここで、参考のため、2019年に発表された日本のドライアイ診療ガイドラインを掲載する。

 

全身性合併症

5.シェーグレン症候群の合併症のうち、疲労/痛みを合併する患者の重症度は特定のツールを使用して評価されるべきである。
6.有効性と副作用のバランスを考慮して、鎮痛薬や鎮痛補助剤の使用を検討すべきである。
7.シェーグレン症候群の全身性合併症の治療は、ESSDAIのスコアを用いて臓器特異的重症度に合わせて調整されるべきである。

8.副腎皮質コルチコイドは、活動性の全身性合併症をコントロールするために必要な最小用量、かつ最短投与時間で使用する必要がある。
9.免疫抑制剤は主に副腎皮質コルチコイドを減量するために、使用されるべきであり、ある免疫抑制剤が他の免疫抑制剤よりも優れていることを裏付ける証拠はない。
10.重度の難治性全身性合併症の患者では、B細胞標的療法を検討することができる。
11.全身性合併症の臓器特異的治療は関して、原則として副腎皮質コルチコイド、免疫抑制剤、生物学的製剤の順に使用すべきである。時には併用する事もある。
12.B細胞リンパ腫の治療は、特定の組織学的サブタイプと病期に応じて個別化する必要がある。

 

 残念ながら、入手可能なエビデンスを分析した後、シェーグレン症候群の全身合併症に対する治療アプローチをサポートする有効なデータは特定されなかった。そこで、後ろ向き研究の結果やEULAR recommendations作成メンバーの臨床経験に基づいて、以下の治療アルゴリズムが提案された。

 

耳下腺・顎下腺・舌下腺腫脹


 まず、急性の場合、感染症を除外できたら、痛み等の徴候がある場合は、3-5日の非ステロイド性消炎鎮痛剤を投与する。効果不十分の場合は副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンで 0.3mg/kg/day)を投与する。さらに効果不十分の場合は、リツキシマブやベリムマブ(両者ともシェーグレン症候群に対する保険適応なし)の投与を考慮しても良い。慢性の場合は、腫瘍やIgG4関連症候群などの疾患を除外する必要がある。

 

関節症状 


 関節症状が関節痛か関節炎かを区別する必要がある。関節痛の場合、変形性関節症や線維筋痛症を除外する必要がある。関節痛の患者を診た場合、いきなり投薬するのではなく、まず運動療法を指導すべきである。関節痛の治療の第1選択薬は非ステロイド性消炎鎮痛剤(7-10日以内)で治療開始する。急性の関節痛を繰返す場合はヒドロキシクロロキン(シェーグレン症候群に対する保険適応なし)を投与する。慢性に痛みが持続する場合はデュロキセチン【商品名:サインバルタ】やプレガバリン【商品名:リリカ】などの線維筋痛症に使用する薬を試してみても良い。ただし、オピオイドの使用は避けるべきである。関節炎の場合、滑膜炎を起こしている関節が5個以下の場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤とヒドロキシクロロキンで加療する。滑膜炎を起こしている関節が5個より多い場合は、関節リウマチを除外した後に、ヒドロキシクロロキンと副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンで 0.5mg/kg/day)で治療を開始する。効果不十分の場合は、メトトレキサート、レフルノミド、アザチオプリン(いずれもシェーグレン症候群に対する保険適応なし)などの免疫抑制剤で加療する。さらに効果不十分の場合は、リツキシマブやアバタセプト(両者ともシェーグレン症候群に対する保険適応なし)の投与を考慮しても良い。

 

皮膚症状


 環状紅斑:限局性の場合は副腎皮質ステロイド軟膏を塗布する。びまん性の場合、ヒドロキシクロロキン単独、もしくは副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.3mg/kg/day)併用で加療する。効果不十分の場合は他の抗マラリア薬単独、もしくは副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)併用で加療する。
 皮膚血管炎:限局性紫斑の場合は副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.3mg/kg/day)で加療する。広範性の紫斑、虚血性病変、潰瘍の場合、副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。効果不十分の場合は、経口免疫抑制剤投与、または、クリオグロブリンによる血管炎合併時にはリツキサンを投与する。それでも効果不十分の場合(重篤なクリオグロブリンによる血管炎合併時)はシクロフォスファミド±血漿交換で加療する。

 

肺病変


 気管支病変:吸入療法
 間質性肺炎:中等度の病変の場合、副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5mg/kg/day)で加療する。重度の病変の場合、副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。効果不十分の場合は、アザチオプリン、ミコフェノール酸、シクロスポリン(いずれもシェーグレン症候群に対する保険適応なし)などの免疫抑制剤で加療する。それでも効果不十分の場合は、シクロフォスファミド、リツキシマブ、あるいは、血漿交換療法で加療する。

 

腎病変


 シェーグレン症候群の腎病変としては、尿細管病変(尿細管性アシドーシスなど)、糸球体病変等がある。糸球体病変が見られた時には全身性エリテマトーデスや抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎を鑑別する必要がある。軽症の尿細管病変の場合は対症療法(重曹の補充やカリウムの補充)で、中等度の尿細管・糸球体病変の場合、副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5mg/kg/day)で加療する。効果不十分の場合は、アザチオプリン、ミコフェノール酸、シクロスポリン(いずれもシェーグレン症候群に対する保険適応なし)などの免疫抑制剤で加療する。重度の尿細管・糸球体病変の場合、副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。効果不十分で、クリオグロブリンによる血管炎合併時には、リツキシマブ、シクロフォスファミド、あるいは、血漿交換療法で加療する。

 

末梢神経障害


 シェーグレン症候群の末梢神経障害としては、多発神経炎、軸索神経炎、神経根症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)等がある。
 多発神経炎:副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。効果不十分の場合は、経口免疫抑制剤、リツキシマブ、あるいは、シクロフォスファミド、血漿交換療法で加療する。
 感覚性軸索神経炎:対症療法(神経障害性疼痛に対する薬など)
 運動性軸索神経炎、神経根症、CIDP:免疫グロブリン静注療法、メチルプレドニゾロンによるパルス療法、シクロフォスファミド投与を試してみる。

 

中枢神経障害


 シェーグレン症候群の中枢神経障害としては、中枢神経系血管炎、視神経脊髄炎(NMOSD)、リンパ球性髄膜炎、多発性硬化症様病変等がある。
 中枢神経系血管炎、NMOSD:副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。効果不十分の場合は、シクロフォスファミド、あるいは、リツキシマブ、血漿交換療法、エクリズマブ(抗アクアポリン4抗体のNMOSDの場合)で加療する。
 リンパ球性髄膜炎:対症療法 
 多発性硬化症様病変:多発性硬化症に対する治療

 

血液異常


 白血球減少症(白血球数 500未満):特に重篤な感染症を繰返す場合、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)の投与を検討する。ただし、白血球数が1000を超える程度の最小投与量とすること。
 血小板減少症(血小板数 20000未満):副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。
 溶血性貧血:Hb 8-10 副腎皮質ステロイド内服(プレドニゾロンで 0.5-1mg/kg/day)で加療する。
 Hb 8未満 副腎皮質ステロイド内服+免疫グロブリン静注療法で治療を開始し、効果不十分の場合は、リツキシマブ、血漿交換療法、シクロフォスファミドによる治療を検討する。

 

抗SS-A/Ro抗体陽性の妊娠可能な女性


 一次、二次予防としてヒドロキシクロロキンの投与が推奨されている(日本では未承認)。
 胎児の心ブロックが判明したら、
 I°心ブロック:胎盤通過性のあるフッ化副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンやベタメタゾンなど)の投与を検討する。頻回にエコー検査を行う必要あり。
 II°心ブロック:フッ化副腎皮質ステロイド投与開始(1ヶ月以内で投与中止)。効果不十分の場合、免疫グロブリン静注療法を考慮する。
 III°(完全)心ブロック:心内膜線維弾性症(EFE)、胎児水腫(hydrops)、心機能低下がある場合は、フッ化副腎皮質ステロイド投与+免疫グロブリン静注療法で加療する。効果不十分の場合は、血漿交換療法を考慮する。心内膜線維弾性症、胎児水腫、心機能低下がない場合は、フッ化副腎皮質ステロイド投与、免疫グロブリン静注療法、血漿交換療法のいずれも行わない方がよい。ただし、モニターはしっかり行う事。

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