シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は、唾液腺、涙腺、汗腺などの外分泌腺が障害される自己免疫疾患であり、ドライマウス(口腔乾燥)、ドライアイ(乾燥性角結膜炎)、ドライスキン(乾燥肌)を主症状とする。さらに、外分泌腺以外症状として、全身倦怠感、発熱、関節痛、間質性肺炎、高ガンマグロブリン血症に伴う紫斑、糸球体腎炎、悪性リンパ腫等を合併することもある。シェーグレン症候群の病因はいまだ不明だが、遺伝的素因、内分泌異常、免疫異常、ウイルス感染などの関与が示唆されている。シェーグレン症候群は他の膠原病を合併しない原発性(一次性)シェーグレン症候群と、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症などの膠原病を合併する続発性(二次性)シェーグレン症候群に大別される。さらに原発性(一次性)シェーグレン症候群は、病変が涙腺、唾液腺などの外分泌腺に限局する腺型と、病変が外分泌腺以外の全身諸臓器におよぶ腺外型に分類される。今回は「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」等を参考にまとめてみた。
シェーグレン症候群の疫学
シェーグレン症候群は圧倒的に女性に多く、男女比は約1:15である。年齢は40~60歳台を中心とする。シェーグレン症候群の有病率は0.05%程度と推定されている。
シェーグレン症候群の症状
シェーグレン症候群による外分泌腺の異常(分泌低下)は涙腺(ドライアイ)、唾液腺(ドライマウス、唾液腺腫脹)のみならず、鼻、気管・気管支、皮膚(汗腺)、腟などにも及び,鼻の乾燥、鼻血、のどの痛み、痰のからみ、皮膚乾燥によるかゆみ、性交時痛などの症状がみられる。唾液・気道粘液分泌低下により感染力が弱まり、虫歯、歯周病、感染性耳下腺炎・顎下腺炎、咽頭炎、慢性気管支炎などを起こしやすくする。また、腺外症状として関節痛、リンパ節腫脹、皮膚の紅斑・紫斑、全身倦怠感、発熱、間質性肺炎、末梢神経障害、悪性リンパ腫なども起こし、つらい症状のために、うつ状態になることもある。
シェーグレン症候群の検査
1)口腔検査
ガム試験
ガムを10分間噛むことで分泌される唾液量を測定する。10分間で10ml以上あれば正常。
サクソン試験
口腔内にガーゼを含ませて2分間噛んでいただき、前後のガーゼの重さの差(唾液量)を計測する。2g/2分の唾液増加があれば正常。
唾液腺造影法
唾液腺(主に耳下腺)開口部より造影剤を注入し、大唾液腺を描出するX線検査法である。侵襲が大きいため、最近はMRシアログラフィー(MRIを使用した唾液腺の検査法で、唾液腺造影法に類似した画像が得られる)で代用される事が多い。
唾液腺シンチグラフィー
放射性同位元素(アイソトープ:99mTc-pertechnetate)を静注後、シンチカメラを用いて、耳下腺・顎下腺等の唾液腺に集積したアイソトープを検出し、唾液腺機能の評価を行う。
2)眼科検査
シルマー試験
図のように、目と下まぶたの間に専用のろ紙を入れて涙の分泌量を測定する。5分間で5mm以下で陽性と判断する。
ローズベンガル試験
1%ローズベンガル液を点眼後、細隙灯顕微鏡下で角膜・結膜上皮の状態を観察する方法で、乾燥した角膜・結膜は点状に赤紫色に染色される。van Bijsterveld score:鼻側球結膜、角膜、耳側球結膜の3ヶ所について、それぞれのローズベンガル染色の程度を0点;無染色、1点;軽度、2点;中等度、3点:重度と4段階で評価。合計点数(最高 9点) 3点以上でドライアイ疑いとする。
蛍光色素試験(フルオレセイン試験)
2%フルオレセイン点眼液を点眼後、細隙灯顕微鏡下でコバルトフィルターを用いて、角膜・結膜上皮の状態を観察する方法で、ドライアイでは点状に緑色に染色される。
3)血液検査
抗Ro/SS-A抗体
原発性シェーグレン症候群の患者では60~80%に検出される。しかし、この抗体は膠原病の患者に広く検出されるので、シェーグレン症候群であるということはこれだけでは強く言うことができない。他の診断要素と合わせて診断を進めることが必要である。
抗La/SS-B抗体
原発性シェーグレン症候群の患者では20~40%に検出される。この抗体が検出されるとシェーグレン症候群である可能性が高いといわれている。
シェーグレン症候群でよく認められる血液異常としては、抗核抗体陽性、リウマトイド因子陽性、高γグロブリン血症(IgG高値)、白血球減少、血小板減少などである。
4)病理検査(小唾液腺生検)
下口唇の小唾液腺を採取する方法である。麻酔をかけた上で、下口唇の内側の粘膜表面を小切開し、唾液腺を取り出す。切開後は縫合し、約7日で抜糸する。病理組織学的に唾液腺組織の4mm2の範囲内にリンパ球が50個以上浸潤している場合(1 focus)を陽性所見とする。
シェーグレン症候群の診断
ESSDAI
ESSDAIは医師によって評価されるスコアで、ESSDAIの点数が5点未満を低疾患活動性、5~13を中等度疾患活動性、14点以上を高疾患活動性とする。国の指定難病における重症度基準でもESSDAIが採用され、ESSDAI 5点以上が助成対象とされる。
シェーグレン症候群の合併症
原発性シェーグレン症候群で知られる合併症は、血液腫瘍疾患では悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など、消化器疾患では原発性胆汁性胆管炎、自己免疫性肝炎など、循環器疾患では肺動脈性肺高血圧症など、内分泌疾患としては橋本病などがある。悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、肺動脈性肺高血圧症はいずれも生命予後に関わりうるものであり重要である。悪性リンパ腫合併のリスク因子として、唾液腺腫脹、紫斑(palpable purpura、または、皮膚血管炎)、血清C3低下、血清C4低下が挙げられる。「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」よりまた、抗Ro/SS-A抗体陽性の女性が妊娠した場合、胎児に心ブロックが発症する可能性があるため、内科(リウマチ科)・産科・小児科が連携し、厳重な管理を行う必要がある。薬に対して薬剤アレルギーを起こしやすいことも注意すべき点である。
シェーグレン症候群の治療
根治的治療法はないので乾燥症状に対する対症療法が中心となる。
1)ドライマウスの治療薬
「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」で強く推奨されている薬はセビメリン塩酸塩(商品名:サリグレン)とピロカルピン塩酸塩(商品名:サラジェン)の2剤である。2剤とも、唾液分泌量の改善、口腔乾燥症状の改善を認め、保険適用されているが、嘔気、多汗、動悸、頻尿等の有害事象には留意する必要がある。ピロカルピン塩酸塩による嘔気、多汗、動悸、頻尿等で内服が困難な場合は顆粒剤を使用した含嗽法も使用可能である。その他、麦門冬湯、口腔保湿剤(商品名:サリベート)、アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽液(商品名:アズノール含嗽液、ハチアズレなど)、ニザチジン(商品名:アシノン)、カルボシステイン(商品名:ムコダイン)などが使用されることがある。
2)ドライアイの治療法
「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」で強く推奨されている薬はヒアルロン酸ナトリウム点眼液(商品名:ヒアレインなど)、ジクアホソルナトリウム点眼液(商品名:ジクアス)、レバミピド点眼薬(商品名:ムコスタ)の3剤である。ヒアルロン酸ナトリウム点眼液はシェーグレン症候群に保険適用があるが、ジクアホソルナトリウム点眼液、レバミピド点眼薬の保険適用病名は「ドライアイ」である。ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼回数が増える場合(1日6回以上)は防腐剤不含のヒアレイン・ミニを使用すべきである。人工涙液マイティアも使用される。涙点プラグもドライアイの治療法として、「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」で強く推奨されている。
3)ドライスキンの治療薬
ヘパリン類似物質軟膏(商品名:ヒルドイドなど)などの保湿剤が処方される。
4)再発性唾液腺腫脹の治療法
「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」では、抗菌薬投与、副腎皮質ステロイド投与、耳下腺洗浄療法が弱く推奨されている。
5)腺外病変の治療法
「シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年度版」では、副腎皮質ステロイド投与、シクロホスファミド投与、リツキシマブ投与、アバタセプト投与が弱く推奨されている。
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シェーグレン症候群の日常生活上の注意
1)口腔内の湿潤に気をつけること
ペットボトルの水(糖分を含まないもの)・水筒、口腔保湿剤などを持ち歩くようにする。
2)口腔内を清潔に保つこと
歯磨きやうがいを行う。アルコール入りの洗口剤・発泡剤入りの歯磨き剤は使わないこと。歯磨きのしすぎは逆に唾液を失う事もあるので要注意。定期的な歯科受診も大事である。
3) 咀嚼回数を増やす
咀嚼回数を増やすことで唾液分泌が促進される。
4)飴をなめたり、ガムを噛む
この場合の注意点は、虫歯の原因とならないシュガーレスやキシリトール入りを使用すること。
5)軽い運動をしたり、リラックスしたりする
運動・リラックスは副交感神経を刺激して唾液分泌を促進する。
6)酸味のある食べ物で唾液分泌を刺激する
酸味は唾液分泌を促進するが、口腔乾燥が重度の場合は痛みを伴う可能性があるので注意する。
7)ストレス軽減
ストレスにさらされ続けると、脳からの作用により、唾液の分泌が抑制され、ドライマウスが悪化する。
8)薬の見直し
ドライマウスを引き起こす薬剤を服用していないか確認する。
9)テレビ、パソコン、スマホの画面の見すぎに要注意
テレビ、パソコン、スマホの画面をずっと見ているとドライアイが悪化する。
10)加湿器の使用
冬期に室内が乾燥する場合は加湿器を使用する。