運動のうつ症状に対する効果について説明します。
運動はうつ症状を改善させる

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 健康を維持するための方法としての運動は新しい概念ではありません。ヒポクラテス(紀元前460~370年頃) やガレノス(西暦129~216 年頃) は、運動の美徳を提唱していました。その後、17世紀にRobert Burtonは『憂鬱の解剖学』(1621年頃)の中で、憂鬱に対するいくつかの「治療法」の1つとして運動を特に言及しました。しかし、精神神経疾患に対する運動の利点は、20世紀半ばまで正式に認められませんでした。うつ病の潜在的な治療法としての運動の体系的な研究は、1960年代後半のWilliam P. Morganによる先駆的な研究から始まり、その後、うつ病に対する運動の影響についての研究が行われました。私が調べる事ができた2018~2023年の論文を下記に示します。

うつ病・うつ状態に対する運動の有用性に関する臨床的研究

Depression and adult neurogenesis: Positive effects of the antidepressant fluoxetine and of physical exercise
Brain Research Bulletin 143 (2018) 181-193

 抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害剤:SSRI) であるフルオキセチンと運動の、うつ病ならびに成人における神経新生(neurogenesis)への効果を検証した総説です。フルオキセチンと運動はともに、記憶維持に重要である脳の部位、海馬おける神経新生を活性化する能力を備えており、どちらも抗うつ作用を示す事ができます。ランニングの抗うつ作用と、海馬の神経新生と可塑性の増加と相関していました。

Exercise interventions for the prevention of depression: a systematic review of meta-analyses
BMC Public Health (2020) 20:1255 https://doi.org/10.1186/s12889-020-09323-y

 うつ病予防に運動は効果があるか否かを検証した総説(メタ解析)です。8件の文献のメタ解析の内、6件の文献では、小児、青少年、成人、高齢者の抑うつ気分の軽減における運動介入の有意な効果が認められ、2件では有意でないが有効という結果が認められました。低強度の運動は高強度の運動と同じくらい効果的であることを示唆する報告もありました。うつ病を発症していない一般の人において、運動は抑うつ気分を解消するのに有効であるという結論でした。

Exercise, brain plasticity, and depression
CNS Neurosci Ther. 2020;26:885-895.

 運動がうつ病に有効である事を脳の可塑性(brain plasticity)の観点から検証した総説です。ランダム化比較試験により、有酸素運動、レジスタンス運動、mind-body exercise(ヨガ、ピラティス、太極拳など)がうつ病の症状を改善できることが示されています。運動は、うつ病患者の脳構造を再形成し、関連する脳領域の機能を活性化し、行動適応の変化を促進し、海馬と白質の容量を維持することで、脳の神経処理を改善し、うつ病患者の認知機能の低下を遅らせることが証明されています。

The Effects and Mechanisms of Exercise on the Treatment of Depression
Front. Psychiatry 12:705559. doi: 10.3389/fpsyt.2021.705559

 運動がうつ病治療として効果があるか否かを検証した総説です。運動は、単独療法、または補助療法として、18~65歳の年齢層のうつ病に治療効果があり、運動療法の利点は従来のうつ病治療に匹敵します。うつ病の症状を軽減するには中強度の運動で十分ですが、さらに高強度の運動の方が効果的という結果でした。有酸素運動(ウォーキング、サイクリング、水泳、ジョギング、縄跳び、エアロビクスなど)、レジスタンス運動(機械やダンベルなどを使用したレジスタンスエクササイズ、ウェイトトレーニングなど)、mind-body exercise(太極拳、気功、ヨガ、ピラティスなど)はいずれも、若年者ならびに高齢者のうつ病症状に効果的な治療法です。
 推奨事項: 中程度の強度の有酸素運動、またはmind-body exerciseを週に3~5回行い、4~16週間継続することが推奨されます。

The effects of exercise on sleep in unipolar depression: A systematic review and network meta-analysis
Sleep Medicine Reviews 59 (2021) 101452

 運動がうつ病患者の睡眠改善に効果があるか否かを検証した総説(メタ解析)です。17件のメタ分析の結果、運動しない場合と比べ、中等度の有酸素運動のみを除くすべての運動介入がうつ病患者の睡眠状態を大幅に改善させることが示されました。通常の治療と比較して、mind-body exercise(ヨガ、ピラティス、太極拳など)と通常の治療、および激しい筋力運動は有意に効果的でした。この研究結果は、うつ病の追加治療としての運動の利点を裏付けています。

The Role of Exercise in Management of Mental Health Disorders: An Integrative Review
Annu Rev Med. 2021 January 27; 72: 45-62. doi:10.1146/annurev-med-060619-022943.

 身体的運動が精神的健康障害の管理において治療の可能性を示唆する多くの証拠についてまとめた総説です。身体的運動とメンタルヘルスの結果を結びつける証拠の多くは、うつ病に対する有酸素運動トレーニングの効果に焦点を当てていますが、不安や心的外傷後ストレス障害の治療における有酸素運動とレジスタンス運動の有効性を支持する研究は増えています。

Systematic review and meta-analysis of the effects of exercise on depression in adolescents
Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health (2022) 16:16  https://doi.org/10.1186/s13034-022-00453-2

 運動が青年期のうつ状態、うつ病の治療として効果があるか否かを検証した総説です。15の論文をまとめて解析した結果、運動は青年期のうつ状態、うつ病に有効でした。うつ病のある青年の場合、1回30分、週4回、6週間継続する運動介入で最適な結果が得られました。うつ症状のある青年の場合、有酸素運動と筋力トレーニング + 有酸素運動の効果は有意でしたが、mind-body exercise(ヨガ、ピラティス、太極拳など)の効果は有意ではありませんでした。うつ症状のある青年の場合、1回75~120分、週3回、8週間続ける有酸素運動が最適な結果をもたらしました。うつ病やうつ症状のある青少年にとって、中程度の強度の運動はより良い選択です。

Association Between Physical Activity and Risk of Depression
JAMA Psychiatry. 2022 79: 550-559.   doi: 10.1001/jamapsychiatry.2022.0609: 10.1001/jamapsychiatry.2022.0609


 成人における運動とうつ病発症との間の用量反応関係はあるかを調べた論文です。191,130人の参加者を対象とした15件の研究のメタ解析の結果、運動とうつ病の間の逆曲線の用量反応関連が観察され、運動量が少ないほどうつ病発症リスクが高くなるという傾向か見られました。運動していないと報告している成人と比較して、推奨運動量の半分(4.4 mMET-h/wk)の運動している成人はうつ病のリスクが18%減少し、推奨運動量(8.8 mMET-h/wk)の運動している成人では、うつ病のリスクが25%減少していました。

Comparative effectiveness of exercise, antidepressants and their combination in treating non-severe depression:a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials
Br J Sports Med 2022;56:1375-1380. doi:10.1136/bjsports-2022-105964

 
 重症ではないうつ病患者に対する運動、抗うつ薬、運動と抗うつ薬の両者の併用療法を比較検討した総説(メタ解析)です。21件のランダム化対照試験を解析した結果、運動(standardised mean difference : SMD=-0.45)、抗うつ薬(SMD=-0.33)および併用療法(SMD=-0.45) は、対照と比較してうつ症状の軽減において優れていました。3者の治療法の間に差はありませんでした。運動には抗うつ薬と同様の有益な効果があり(SMD=-0.12)、併用療法の効果も運動(SMD=0.00)および抗うつ薬単独(SMD=-0.12)の効果と同様でした。


 ただし、運動群の脱落率は抗うつ薬群(RR=1.31)および対照群(RR=1.29)よりも高いという結果でした。
 この結果は、重度ではない成人のうつ病の症状を軽減する上で、運動(脱落率は多いが)と薬物療法の間に差がないことを示唆しています。成人の重症でないうつ病の代替治療または補助治療として運動を採用できることを裏付けています。

Exercise program for the management of anxiety and depression in adults and elderly subjects: Is it applicable to patients with post-covid-19 condition? A systematic review and meta-analysis
Journal of Affective Disorders 325 (2023) 273-281

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックにより不安やうつ症状を訴える人が増えてきました。パンデミック後の不安、うつ症状を有する人に対する運動の効果を検証しました。8件の文献のメタ解析の結果、運動群では、対照群と比較して、うつ症状および不安症状のより大きな改善が見られました。 指導者がいた方が、慢性疾患を持つ人の不安やうつ症状に対して効果的でした。

The role of exercise in the treatment of depression: biological underpinnings and clinical outcomes
Mol Psychiatry. 2023 January ; 28(1): 298-328. doi:10.1038/s41380-022-01819-w.

 運動がうつ病に対し臨床的に有効である事、ならびに運動の有効性の生物学的な機序(後述)についてまとめた総説です。
 運動は定期的に、週に3~5回、1回あたり45~60分、中程度から激しい強度で行う必要がありますが、これは各個人の体力レベルに基づいて調整できます。この推奨される頻度、強度、時間は、これまでのレビューやメタ分析、120 万人の運動習慣とメンタルヘルスに関する解析結果等によって直接裏付けられています。
 逆に、うつによるモチベーション・気力の欠如、エネルギー・体力の低下、疲労が、治療計画に運動を組み込むことを避ける一般的な理由であることを私たちは認識しています。この場合、まず薬物療法または心理療法でうつ病の治療を開始し、その後、うつ病が改善したら再発予防目的として運動を導入することができます。

Exercise as medicine for depressive symptoms? A systematic review and meta-analysis with meta-regression
Br J Sports Med 2023;57:1049-1057. doi:10.1136/bjsports-2022-106282

 運動がうつ病治療として効果があるか否かを検証した最新の総説(メタ解析)です。運動はうつ病やうつ症状の治療に効果的であり、中程度の強度の有酸素運動で、指導者がいた方が有効という結果でした。

 41の論文をまとめて解析した結果、運動はうつ病に有効であるという結果になりました(standardised mean difference : SMD=-0.946)。サブ解析の結果、運動の強さは中程度が良く(SMD = -1.132)、運動の種類としては、有酸素運動(SMD=-1.156)、筋力トレーニング(SMD = -1.042)はともに有効ですが、両方を組み合わせると効果がやや減弱することがわかりました(SMD = -0.455)。

 グループで運動をしても(SMD = -0.848)、個人で運動しても(SMD = -0.802)効果はほぼ同じで、指導者がいた方(SMD = -1.026 対 -0.451)が効果が高いこともわかりました。

運動はうつ病にどのような機序で有効なのか


The role of exercise in the treatment of depression: biological underpinnings and clinical outcomes
Mol Psychiatry. 2023 January ; 28(1): 298-328. doi:10.1038/s41380-022-01819-w.

 運動が抗うつ効果を生み出す根本的な分子機構は十分に理解されていませんが、 運動によって筋肉から分泌されるミオカインと呼ばれる生体分子が、運動による抗うつ効果の鍵を握っている可能性が高く、さらなる研究が必要です。運動がうつ病を軽減するメカニズムが関与する生体分子としてはセロトニン、ノルアドレナリン、brain-derived neurotrophic factor (BDNF)、TNF-α、IL-6、IL-10などが挙げられます。これらの分子がお互いにどのように関わり合い、運動による抗うつ作用をもたらすのかを今後解明する必要があります。この論文では、運動はうつ病にどのような機序で有効なのかの仮説も示されていませんでした。

BDNF Impact on Biological Markers of Depression? Role of Physical Exercise and Training
Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 7553. https://doi.org/10.3390/ijerph18147553

 この論文はbrain-derived neurotrophic factor 【BDNF】を運動による抗うつ効果の鍵となる生体分子と考え、仮説が示されています。BDNFは「運動脳」の中でも抗うつ効果の最強物質として示されていました。

 さまざまな因子がうつ病と関連していると報告されています。

 BDNFは、損傷後の神経再生(特に海馬【hippocampus】の神経再生)、ニューロン間のシナプスの形成と維持などの神経可塑性【Neuroplasticity】の活性化に関与しています。さらに、BDNFはニューロンとミクログリア細胞の成長と生存を促進します。また、細胞の分化、シグナル伝達の促進等にも関与します。これらの特性により、BDNFは認知状態および精神状態にも関与することがわかっています。中枢神経系では、BDNFは主に海馬で合成され、大脳皮質、中脳、視床 (扁桃体)、視床下部、橋、または延髄でも合成されます。さらに、骨格筋が収縮すると、BDNFを含むミオカインと呼ばれるさまざまな生物学的な活性化因子を分泌されます。BNDFは血液脳関門を通過することができるので、血清BDNF濃度の変動は中枢神経系のニューロンとグリア細胞でのBDNF産生量を反映すると考えられます。うつ病患者では、血清BDNF濃度の低下はうつ病の重症度と相関していました。これまでの研究では、持久性の運動と短期間の高強度無酸素運動(筋トレ)の両方が、健常者とうつ病患者のBDNFレベルを上昇させる可能性があることを示しています。うつ病患者では、BDNFレベルの上昇により、認知能力、作業記憶、睡眠の質の改善も伴っていました。
 運動中に生成される乳酸【Lactate】は神経可塑性【Neuroplasticity】の活性化に関与し、脳の燃料として役立ちます。乳酸は、末梢から血液脳関門を通過することができ、脳内のニューロンに輸送され、そこでミトコンドリアによって、ピルビン酸に変換されます。 ニューロンにおいて、乳酸は、記憶過程において重要な現象である長期的なシナプス増強の維持に不可欠です。
 人体には、マリファナの主要な精神活性物質であるテトラヒドロカンナビノールと同様の効果を持つ化学物質を存在し、【Endocannabinoids】と呼ばれます。Endocannabinoidsの受容体は主に中枢神経系のさまざまな部位(皮質、海馬、大脳基底核、扁桃体、視床下部、小脳、大脳辺縁系)に存在し、感情、満足感、快感、恐怖を制御します。 このシステムは、記憶と動機付けのプロセスにおいて重要です。スポーツにおいて「ランナーズハイ」として知られる現象、つまり満足感、高揚感、痛みや疲労に対する抵抗力の増大の原因となる可能性のあるメカニズムの 1 つと考えられているのは、エンドルフィン(エンドルフィンの分子量が大きすぎるため、血液脳関門を自由に通過できません)ではなくEndocannabinoidsです。主なEndocannabinoidsは【Anandamide】N-arachidonoylethanolamine (AEA) と【2-arachidonoylglycerol (2-AG)】 です。anandamideはチョコレートに少量含まれています。さまざまな研究からのデータは、運動がEndocannabinoidsのシステムを活性化することを示されています。Anandamideが、運動中にBDNF濃度を上昇させるのことが報告されており、運動中に生成されるAnandamideが抗うつメカニズムの1つである可能性を示唆されています。
 その他、【β-hydroxybutyrate】、【Estrogens】、【Dehydroepiandosterone】、【Testosterone】、 【CREB】、【PGC1-α】、【Irisin】も運動による抗うつ作用に関連している事が報告されています。

どのような運動が有効か

 個別の運動が抗うつ作用を有するかについて調べてみました。私自身が行っている運動は、ジムでのエクササイズ(Body Combat:ボクシングエクササイズ、リトモスサルセーションズンバなどのダンスプログラム)、山歩きです。

Effects of Music, Massage, Exercise, or Acupuncture in the Treatment of Depression Among College Students: A Network Meta-Analysis
Neuropsychiatric Disease and Treatment 2023:19 1725-1739


 うつ状態の大学生に対し、音楽療法、マッサージ、運動、鍼治療が抗うつ作用を有するかを調べた総説です。メタ解析アプローチを使用して、うつ病を経験している大学生に対する運動、マッサージ、音楽療法の治療効果を評価しました。その結果は、高強度インターバルトレーニング (96%)、ヨガ (94.90%)、ダンス (78.30%) 、音楽(73.30%)、球技(62.50%)、筋力トレーニング(51.70%)、有酸素トレーニング(45.30%)、太極拳(35.40%)、振動トレーニング(27.30%)、マッサージ(20.10%)、気功(14.30%)、介入なし(1.00%)の順でした。

Boxing as an Intervention in Mental Health: A Scoping Review
American Journal of Lifestyle Medicine 2023, 17, 589-600

 ボクシングエクササイズのメンタルヘルスへの影響を調べた総説です。メンタルヘルスのさまざまな問題を改善するエクササイズの方法として非接触ボクシングエクササイズを使用した16の文献を特定しました。高強度のトレーニング設定での非接触ボクシングエクササイズは、不安、うつ病、PTSDの症状を大幅に軽減しました。非接触ボクシングエクササイズは怒りとストレスのカタルシスをもたらし、気分、自尊心、自信、集中力等が向上したという証拠をもたらしました。すなわち、非接触ボクシングエクササイズが精神的健康への負担を改善するための有望なプログラムであることを示しています。

Why do we climb mountains? An exploration of features of behavioural addiction in mountaineering and the association with stress-related psychiatric disorders
European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience (2023) 273:639-647 https://doi.org/10.1007/s00406-022-01476-8


 一般的に知られているように、アウトドアスポーツ、特に定期的に登山をしている人は非常に健康で、屋外環境での身体活動は、身体的および精神的健康に良い影響を与えます。しかし、極端な登山は行動依存症と類似点を持っている可能性があり、健康に悪影響を与える可能性もあります。この研究はアルプス周辺の国々(オーストリア、ドイツ、スイス、イタリア)でドイツ語を話す登山家を対象に行われました。登山依存症の傾向のある人 (MA n=88) と登山に対する依存性がない人 (CO n=247) の間で比較検討が行われました。登山依存症は、ドイツ運動依存症尺度 (German Exercise Dependence Scale) およびドイツ運動依存症インベントリ (German Exercise Addiction Inventory) で測定されました。MA群はCO群と比べ、ストレスに関して有意に高いスコアを示し (p < 0.001)、うつ病の症状 (p < 0.001)、不安の症状 (p < 0.001)、摂食障害の症状 (p < 0.001)、アルコール依存症 (p < 0.001)、違法薬物乱用 (p = 0.050)、精神疾患の現病歴または既往歴 (p < 0.001)、危険な行為をする傾向 (p < 0.001)を有する人の数が有意に多いという結果でした。


Evidence of the Effects of Dance Interventions on Adults Mental Health: A Systematic Review
J Dance Med Sci. 2023 27(4):183-193. doi: 10.1177/1089313X231178095. Epub 2023 Jun 7.

 成人の精神的健康に対するダンスプログラムの影響の証拠を調べた総説です。10件のランダム化臨床試験(18歳から62歳までの計933人)を解析した中には、ダンス運動療法、ラテンダンス、タンゴ、ルンバ、ワルツなどが含まれていました。その結果、ダンス方法に関係なく、ダンスプログラムに参加した成人は、参加しなかったグループと比較して、うつ病、不安、ストレスの症状が軽減されたことが示されました。

Effectiveness of Dance-Based Interventions on Depression for Persons With MCI and Dementia:A Systematic Review and Meta-Analysis
Frontiers in Psychology 2022 doi: 10.3389/fpsyg.2021.709208

 軽度認知障害患者(MCI)、認知症患者に対して、ダンスプログラムが有効か否かを検証した総説(メタ解析)です。5件のランダム化比較試験のメタ解析の結果、ダンスプログラムは、MCIおよび認知症患者のうつ病を軽減するのに有益という結果でした。ダンスプログラムは、MCI患者よりも認知症患者のうつ病の軽減に効果があり、週に2-3回、1回35分を行うよりも、週に2回、1回1時間のダンスの方がより効果的でした。

Dance Is a Healing Art
Curr Treat Options Allergy 2023 DOI 10.1007/s40521-023-00332-x

 ダンスがさまざまな疾患・病態にどのような影響を及ぼすかをまとめた総説です。ダンスレッスンはうつ状態と不安を軽減することが知られています。
 成熟した脳の神経可塑性に対するダンスレッスンの影響を調査するランダム化対照試験(8件、18歳から94歳までの889人の被験者)のうち、7件は正常者を、1件は軽度認知障害患者を対象に実施されました。神経可塑性は、脳の体積と構造、脳機能、神経栄養因子の産生などのパラメーターを使用して評価されました。ダンスレッスンには、社交ダンス、リトモス・サルセーション・ズンバなど(さまざまなダンスジャンルの振り付けをするプログラム)、およびアギラノと呼ばれる高齢者向けの特殊なダンスプログラムが含まれていました。ダンスレッスンは、海馬、灰白質、海馬傍回の容積や白質の完全性の増加など、脳の構造的および/または機能的変化にも関連していました。ダンスレッスンにより脳の領域が統合され、神経可塑性が改善されると結論付けています。

まとめ

 私の調べた範囲内の論文を見渡すと、「運動脳」に記載されている内容(うつ状態に対する運動の有用性)を追確認するものばかりでした。ただし、年齢によって、うつ症状に有効な運動方法は少し違っているようでした。
 「運動脳」の記載と異なる点は。有酸素運動だけでなく。レジスタンス運動もうつ症状に有効であること(「運動脳」ではレジスタンス運動に関するデータが不十分でした)、ランナーズハイを起こす脳内分子として、「運動脳」ではエンドルフィンとカンナビノイドの両者を挙げていましたが、カンナビノイドのみが関連しているようだというのが最新の知見でした。BDNFに関しては、「運動脳」でも言及されていましたが、さらに研究が進んでいる事がわかりました。
 私自身が行っている運動【ジムでのエクササイズ(Body Combat:ボクシングエクササイズ、リトモスサルセーションズンバなどのダンスプログラム)、山歩き(やりすぎでなければ)】はいずれも、うつ症状に有効ということで安心しました。
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