乾癬性関節炎について説明します。
乾癬性関節炎

乾癬性関節炎


乾癬性関節炎

乾癬性関節炎(psoriatic arthritis:PsA)とは

 乾癬性関節炎は主にリウマチ科や整形外科で使用される名称で、皮膚科では関節症性乾癬と呼ばれます。乾癬性関節炎は乾癬に血清リウマチ反応陰性の関節炎を合併する病型です。関節症性乾癬の場合、変形性関節症のような関節症を合併する場合も含まれることがあります。末梢関節炎のほか仙腸関節炎や脊椎炎、また腱・靱帯の付着部炎を伴うこともあり、強直性脊椎炎に代表される血清反応陰性脊椎関節症(seronegative spondyloarthropathy)の一つに分類されます。関節炎の好発部位は指趾の第1 関節で、関節破壊に関しては一般に関節リウマチ(RA)に比して軽症のことが多い傾向がありますが、指骨にpencil-in-cup(上の図)と形容される高度な破壊をきたしムチランス様変形を呈することもあります。爪病変を合併するものが多く見られます。皮疹と関節炎の発症の順番は皮疹が先行するものが約80%を占めます。 なお皮疹の程度と関節炎は必ずしも相関しません。
 以前は日本では乾癬の患者で関節炎を合併する頻度は5%程度といわれていましたが、最近の調査(J Rheumatol. 2015 Jun 15. pii: jrheum.141598)では乾癬患者の14.3%(8.8-20.4%)に乾癬性関節炎を合併するといわれます。


オカルト乾癬性関節炎

 臨床的には、関節炎が認められない乾癬の患者でも、最近の画像診断技術を用いると、実は関節に炎症(サブクリニカルもしくはオカルトの関節炎)が発見されるという事が報告されています。
 たとえば2011 年のある報告では、超音波検査によって尋常性乾癬患者162 名のうち、11.6パーセントで付着部炎が認められると報告されています。2012 年のMRI を使った報告では、48 人の尋常性乾癬患者のうち、93 パーセントに膝関節の付着部炎が認められました。また日本の高知大学のPET-CT を用いた研究では、尋常性乾癬患者5 名のうち、3 名にサブクリニカルな関節炎が存在する事が報告されました。

乾癬の爪病変

 乾癬患者の50%、乾癬性関節炎の90%に爪病変を認められます。爪病変を伴う乾癬患者では、そうでない方に比べて約3倍関節症を、後になって併発しやすいことが判明しています。症状としては、点状陥凹、変色、爪の肥厚、爪甲剥離などです。
 実は乾癬性関節炎における爪の変化は、手指末節の付着部炎と関係していることがわかってきました。つまり、爪を形成する爪母と、指の末節関節の付着部組織が、解剖学的に連続していることによって、乾癬性関節炎に特徴的な手指の付着部炎が、爪母に波及する事により、爪病変が生じるということになります。

乾癬性関節炎(PsA)の治療

 PsAの初期治療としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がよく用いられます。罹患関節数が少数の場合にはステロイド関節内投与も考慮されますが、感染のリスクが高いので乾癬の皮疹の近くからは穿刺すべきではありません。
 サラゾスファピリジン(SASP)はPsAの末梢関節炎に対しプラセボ対照比較試験で有効との報告がありますが、その効果は限定的です。
 メトトレキサート(MTX)のPsAに対する有効性は古くから報告がありますが、エビデンスレベルは高くはありません。また両者(SASP、MTX)とも、脊椎炎や仙腸関節炎などに由来する痛みや朝のこわばりに対して有効との証明はありません。
 最近、レフルノミドが乾癬とPsAの両者に有効であることが無作為対照試験で示されました。しかし、これらのいずれの薬剤(SASP, MTX, レフルノミド)も、PsAの関節破壊に対する抑制効果は証明されていません。

乾癬、乾癬性関節炎に対する各種薬剤の効果


Drugs (2014) 74:423-441より改変

乾癬性関節炎に対するTNF阻害剤の有効性

 当院では乾癬性関節炎の患者さんに対し、インフリキシマブ、アダリムマブを投与した実績があります。インフリキシマブ、アダリムマブは日本で保険適応となっていますが、エタネルセプトは適応外です。

 関節リウマチの薬剤評価基準であるACR20(ACR・コア・セット参照)を用いて、乾癬性関節炎の関節炎所見を検討したところ、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトで大差がないことが知られています。

TNFとMTXの併用について

 4種類のTNF阻害剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ)について、6つの二重盲検試験を解析した所、有効性に関してはMTXの併用、非併用では差がありませんでした。ただし、MTXを併用すると、抗TNF阻害剤抗体産生を抑制し、TNF阻害剤投与期間を延長できる可能性はあります。
Tumour necrosis factor inhibitor monotherapy vs combination with MTX in the treatment of PsA: a systematic review of the literature.
Rheumatology (Oxford). 2015 May;54(5):915-26

乾癬性関節炎に対するUstekinumabの有効性

 浜松医大や遠州病院と連携し、ウステキヌマブ(日本でも保険適応済)の投与は可能です。

 抗TNF阻害剤未使用例の方が効果が高く出ます。また、MTXの併用による上乗せ効果はありませんでした。
Ann Rheum Dis 2014;73:990?999.

Secukinumab:乾癬性関節炎に対する効果

 日本では承認されていませんが、Secukinumabは乾癬性関節炎に有効です。

Lancet. online June 29, 2015 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)61134-5

2017年10月21日(土)HUMIRA National Symposium 2017より

乾癬性関節炎の関節病変とTNF阻害製剤の効果 東邦大学医学部内科学講座膠原病学分野 亀田 秀人先生


 乾癬性関節炎に対し、メトトレキサートの効果はプラセボと比較し、有意差は認められなかった。



 乾癬性関節炎に対する抗TNF阻害製剤の効果はどの薬剤を用いてもほぼ同等である。

N Engl J Med 2017;376:957-70.

 乾癬性関節炎で最初に使用すべき生物学的製剤はTNF阻害剤である。
2015の乾癬性関節炎に対するEULARの推奨
1. 治療は定期的なモニタリングおよび治療の適切な調整により、寛解、または低疾患活動性を達成することを目標とすべきである。
2. 乾癬性関節炎患者では、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)は筋骨格系の徴候および症状を緩和するために使用することができる。
3. 特に疾患活動性が高い乾癬性関節炎患者(多発腫脹関節を有する末梢関節炎例、炎症による構造的破壊が見られる例、ESR / CRP高値例、関節外症状のある例)では、従来型の合成抗リウマチ剤(csDMARDs)は早期に使用を考慮すべきで、その中でもメトトレキサートは皮膚症状を有する例で有用である。
4. グルココルチコイドの局所注射は、乾癬性関節炎における補助療法として考慮される。全身グルココルチコイドは、最小有効用量を注意して使用可能である。
5. 少なくとも一つのcsDMARDが効果不十分な末梢関節炎患者では、生物学的抗リウマチ剤(bDMARD)を用いた治療、通常TNF阻害剤、を開始する。
6. 少なくとも一つのcsDMARDが効果不十分な末梢関節炎患者でTNF阻害剤が使用困難な場合、IL12/23またはIL17を阻害するbDMARDの投与を考慮すべきである。
7. 少なくとも一つのcsDMARDが効果不十分な末梢関節炎患者でbDMARDが使用困難な場合、、PDE4阻害剤などの標的合成抗リウマチ剤(targeted synthetic DMARD)の投与を考慮すべきである。
8. 活動的な付着部炎および指趾炎に対して、NSAIDまたは局所グルココルチコイド注射への効果が不十分な関節炎患者では、bDMARDによる治療を考慮すべきで、まずはTNF阻害剤から開始すべきである。
9. 活動性の体軸性の疾患を有する(脊椎病変)患者において、NSAIDの効果が不十分な場合、bDMARDによる治療を考慮すべきで、まずはTNF阻害剤から開始すべきである。

10. bDMARDに適切に応答しない患者では、TNF阻害剤の切り替えを含め、他のbDMARDへの切り替えを、検討すべきである。

Ann Rheum Dis 2016;75:499-510


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