トラウマ・PTSDについて説明します。
トラウマ・PTSDについて

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トラウマ・PTSDについて

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 杉山登志郎先生 「トラウマ系の人の慢性疼痛って本当に多い。その中のトップスターが線維筋痛症。ほとんどトラウマ絡みですね。他の症状がよくなると全部よくなるものだから。こころとからだって本当につながっている。」
【座談会 発達性トラウマ障害のゆくえ 「発達性トラウマ障害のすべて」こころの科学 2019年9月15日発行 杉山登志郎 編 日本評論社】 より引用しました。

 私も慢性疼痛症や線維筋痛症の患者さんを診療していて気づく事は「痛みの裏にトラウマあり」ということです。そこで今回はトラウマについてまとめてみました。以下の文献を参考としました。
「トラウマのことがわかる本」2019年6月25日発行 白川美也子 監修 講談社
「発達性トラウマ障害のすべて」こころの科学 2019年9月15日発行 杉山登志郎 編 日本評論社
「発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療」2019年1月30日発行 杉山登志郎 著 誠信書房
一般社団法人日本トラウマティック・ストレス学会事務局のHP

トラウマとは

 トラウマとは心の傷のことで、過去のつらい体験によって、心の状態に悪影響が及ぶ状態です。場合によっては、トラウマにより、生活に支障を来たすようになります。

トラウマの原因となる体験にはどのようなものがあるでしょうか

非日常的な恐怖体験

●震災、火災、台風・大雨による水害、土砂災害などの災害
●交通事故、労働事故など事故
●強姦などの性被害
●殺人未遂、致傷罪などの被害者
●自分が体験したことばかりではなく、ほかの人の恐怖体験を直に目撃したりしたことなどがトラウマになる場合があります。

日常的にくり返されてきた出来事

●子どもの頃、養育者から暴力・暴言を繰り返し受けてきた(身体的・精神的虐待)
●パートナーから暴力・暴言を繰り返し受けてきた(DV)
●身近な人からたびたび性的な接触をされた(性的虐待)
●家族の誰かが殴られたり、ぶたれたりするのを見てきた(面前DV)
●子どもの頃、食事をはじめ、必要な世話を受けられなかった(ネグレクト)
●養育者がひんぱんに変わった
●学校でのいじめ
●パワハラなどのハラスメント

PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post Traumatic Stress Disorder)とは

 PTSDは、生死にかかわるような危険にあったり、強烈なショック体験などが記憶に残ってトラウマとなり、1ヵ月以上に渡って何度も想起され続けて、急に涙ぐんだり、恐怖が込み上げてきたり、不安や緊張が続く、あるいは、めまいや頭痛、眠れないといった身体的な症状が出てくる病気です。自分で自分をコントロールしにくくなっていきます。なお、外傷的な出来事から1ヶ月未満の場合には別に「急性ストレス障害(Acute Stress Disorder:ASD)」の基準が設けられており、PTSDとは区別されています。

PTSDの診断基準

 米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の診断基準を示します。

ICD-11の診断基準を簡略化して示します。
心的外傷後ストレス障害(6B40 Post traumatic stress disorder)
PTSDは、非常に脅迫的または恐ろしい出来事にさらされた後に発症し、以下の3つの症状が認められます。
1)トラウマの再体験:鮮明な侵入的回想、フラッシュバック、悪夢の形で現在のトラウマ的な出来事を再体験すること。(DSM-5では侵入症状)
2)回避:トラウマを想起させる考え、記憶、活動、イベント、人を避ける。(DSM-5では回避症状)
3)持続的な過覚醒状態・脅威感:例えば、予期しないノイズに対して過度の覚醒状態となったり過剰な驚愕反応を示したりする。(DSM-5では覚醒度と反応性の著しい変化)
症状は少なくとも1ヶ月以上持続し、日常生活に深刻な障害を生じます。

PTSDの症状

侵入症状

 意図したわけではないのに、トラウマ体験時のことが急に思い出される症状です。自分の意思を無視して頭の中に入り込んでくるような感じがあるため、「侵入」という書葉が使われています。トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶が突然蘇ってきたり、悪夢として反復されます。また思い出したときに気持ちが動揺したり、身体生理的反応(動悸や発汗)を伴います。記憶が抜け落ちてしまうこともあります。解敵性健忘といって、トラウマとなった出来事についての重要な側面を思い出せなくなることもあります。
フラッシュバック
 侵入症状が激しい形で現れたものです。突然、過去のトラウマ体験が今まさに起きているかのように生々しく感じられ、現実感を失ってしまいます。そのとき見えていたものが見え、聞こえていたことが聞こえ、触れたものに触れたように感じられます。
侵入症状に苦しんでいる人を周囲から見たときの様子
●急に表情が変わり、苦しそうになったり、無表情になったりする
●急に黙り込む
●体の動きが止まる。避けよう、逃げようとするようなしぐさをすることも
●声かけに反応しない。体に触れるとビクッとしたり、叫んだりする

回避症状

 出来事に関して、思い出したり考えたりすることを極力避けようしたり、思い出させる人物、事物、状況や会話を回避します。回避の症状は、思考と行動の両面に現れます。
具体的には
●話をしなくなる
●部屋にひきこもる
●人付き合いを避ける
トラウマを回避するために、危険な行動をくり返すこともあります。
●アルコール・薬物依存
●過食症
●ギャンブル、セックス依存
●自傷行為
解離
 トラウマに対する心の防衛システムには、「解離」という現象もあります。解離が起こると、自分の体験や行動を思い出せない、自分が体験したことなのに、他人事のように感じられるなどといったことが生じます。多重人格も解離の症状に含まれます。

覚醒度と反応性の著しい変化

 いらいら感、無謀または自己破壊的行動(暴飲・暴食など)、過剰な警戒心(ささいなことで激しく怒ったり、攻撃的になったりする)、ちょっとした刺激にもひどくビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害(不眠・過眠)がみられます。体の状態をうまくコントロールできなくなるため、咳や下痢、原因不明の疼痛(頭痛、腹痛などの全身の痛み:慢性疼痛、線維筋痛症)など、身体的な病気が起こることもあります。

認知と気分の陰性の変化

 否定的な認知、興味や関心の喪失、周囲との疎隔感や孤立感を感じ、陽性の感情(幸福、愛情など)がもてなくなります。

PTSD と他の精神疾患の併存

 PTSD には抑うつ、パニック障害、アルコール依存などの他の精神疾患の併存が多いことが知られています。Kessler の調査(Arch. Gen. Psychiatry:1995, 52;1048-1060)では男性の 88%、女性の 79%に精神障害が併存し、さらに男性ではアルコール関連疾患 52%、うつ病 48%、行為障害 43%、薬物依存 35%、恐怖症 31%で、女性ではうつ病 49%、アルコール関連疾患 28%、薬物依存 27%、恐怖症 29%、行為障害 15%であったと報告されています。また、Calabrese らの調査(J Clin Psychiatry:2011, 72;1072-1078)では 自殺念慮の発現率が PTSD 全体では PTSD でない人より 5.4 倍高くなると報告しています。

PTSDの診断チェックシート

https://anxiety-disorder.nerim.info/ptsd-check_sheet.html
 あくまで簡易的なものですので、正確な診断は医療機関にてお受けください。

PTSDの治療法

 薬物療法と下記の心理療法を組み合わせて治療します。トラウマが関連していると薬だけでは改善しにくく、トラウマの影響で起こる症状に対する薬の効果は限界があります。



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