偽痛風(CPPD結晶沈着症)
偽痛風(CPPD結晶沈着症)はピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate dehydrate :CPPD)の結晶が関節腔内に沈着し、その結晶に対して炎症反応を起こす疾患である。比較的高齢者の単関節炎(ときに多関節炎)・発熱・炎症反応上昇を見たときは本疾患を疑うべきである。痛風、感染性関節炎、関節リウマチ、変形性関節症等が鑑別疾患として挙げられる。変形性関節症との合併がしばしば認められる。
頻度,年齢,部位
特発性は高齢者に多く、50歳以上の男性の7.5%、女性の10.8%、80歳代では14%、90歳代以上では実に40%に認められる。二次性の偽痛風は低リン血症、副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症などに伴って認められる。CPPD結晶は、膝半月板、関節軟骨、椎間板などの軟骨のみならず、腱、滑膜、滑液包など軟部組織に沈着する。偽痛風の好発部位は膝関節・手関節・手指MP関節(第3関節)・肘関節・肩関節・股関節・足関節などだが、稀に脊椎に結晶沈着が起こる。
偽痛風の誘因
以前の関節外傷(半月板損傷など)が、数十年後に偽痛風となることがある。低リン血症、副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症が危険因子となる。60歳未満で、偽痛風を発症した場合、上記疾患を疑い、血清鉄、フェリチン、カルシウム、リン、マグネシウム、PTH、ALPを測定すべきである。急性の偽痛風発作の誘因としては、外傷、手術、感染症、入院などが挙げられる。
臨床症状
偽痛風の病型としては慢性型(約50%)、急性型(約25%)に分けられる。
急性型
急激に発症する関節炎で単関節(膝や手関節)、または少数の関節のみが侵される。関節の発赤、腫脹、熱感を伴う。全身症状としては38~40℃に達する発熱、悪寒が認められる。私の経験としては、発熱の割には重症感が余りないのが特徴である。痛風発作の持続時間は数日から1週間程度だが、急性の偽痛風発作の場合、持続期間は数週から数ヶ月持続することがある。
慢性型
多関節炎で変形性関節症の症状と類似する。ただ、変形性関節症では侵されにくい肩関節、手関節、手指MP関節(第3関節)でも、関節炎が認められる。変形性関節症では、CRP、血沈などの炎症性マーカーは陰性だが、偽痛風では、陽性となる。時には関節リウマチと鑑別が困難な状態となることがあり、「偽リウマチ」と言われることもある。
診断
血液検査(CRP, WBC, 血沈などの炎症反応上昇)、単純X線写真(半月板の石灰化像やほかの関節の軟骨の石灰化)、関節穿刺(感染の除外および結晶の有無:ピロリン酸カルシウム結晶は長方形状・棒状・板状の結晶、痛風の尿酸結晶は針状)が特に重要である。 単純X線写真上、軟骨石灰化をきたしていない偽痛風も約40%存在する一方で、逆に、症状なく軟骨石灰化をきたしている例もあり(90歳では40~50%で軟骨石灰化あり)、単純X線写真だけで診断を確定するのは注意を要する。関節液結晶の感度も82%程度とそれほど高くはない。関節液グラム染色・培養が陰性でも、必ずしも感染を否定できない(特に淋菌は10~20%ほどの陽性率)ことがある。診断は臨床所見や病歴も含めて総合的に行う必要がある。発作性に関節炎が起こり、無治療・NSAIDs内服で軽快する事を観察することで偽痛風と診断されることもある。
治療
急性偽痛風発作
基本的には痛風発作と同じで、まず、関節ステロイド注射が可能であれば、関節ステロイド注射を行う。当院では、関節ステロイド注射の代わりに、リポ化ステロイド(リメタゾン)静注で対応している。関節ステロイド注射ができない場合は、コルヒチンの内服を行う。コルヒチン 0.5~1mgを内服する。コルヒチンの投与は急性発作を予防するのにも有効である。重篤な肝障害や腎障害などがあり、コルヒチンが投与できない場合は、NSAIDS(非ステロイド系消炎鎮痛剤)を投与する。高齢者でNSAIDS投与が困難な場合は、少量のプレドニゾロン内服で対処する。プレドニゾロンの投与も難しい場合は、NSAIDS以外の鎮痛剤投与、IL-1β阻害剤投与、関節洗浄などが試される。
慢性偽痛風の治療
急性偽痛風発作に比べ、治療が困難となる。罹患関節が少ない場合は、関節ステロイド注射で対応する。コルヒチン内服(0.5~1mg)、NSAIDS内服、少量プレドニゾロン内服(5~10mg)を患者の状態に合わせて選択すべきである。ヒドロキシクロロキンやメトトレキサートが有効であったという報告もあるが、日本では保険適応ではない。疼痛が強く、滑膜炎の強い場合は人工関節置換術が必要なこともある。
Crowned dens syndrome
第2頚椎の歯突起(dens)周囲に結晶沈着することでおこる疾患で、歯突起が王冠をかぶっている(crowned)、という事で名づけられた。
症状
発熱・激しい後頚部痛・頭痛・項部硬直・首がまわらない
所見
神経学的異常所見はないが、ほぼ全員に頚部運動制限あり
診断
CTにて歯突起周囲に石灰化をきたしていること、炎症反応上昇(WBC, CRP)、くも膜下出血・髄膜炎・敗血症・側頭動脈炎・リウマチ性多発筋痛症・癌骨転移・椎体椎間板炎など他疾患を除外する必要あり
治療
偽痛風の治療と同じ
参考文献
N Engl J Med 2016;374:2575-84
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