皮膚筋炎/多発性筋炎 の治療
副腎皮質ステロイド
最初に副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が使用される。一般に高用量ステロイド療法(体重1kgあたりプレドニゾロン換算で1mg/日)が4週間程度行われ、症状・所見を見ながら徐々に減量される。重症例には、ステロイドパルス療法を併用することもある。
ステロイドミオパチー
1)副腎皮質ステロイド投与後に発症する筋力低下2)CPK正常3)LDH・アルドラーゼ上昇4)治療:ステロイド減量
免疫抑制剤
アザチオプリン 50-100mg/日 内服 保険適用あり副作用 肝障害、骨髄抑制シクロホスファミド 50-100mg/日 内服または、パルス静注(500-1000mg/月) 保険適用あり副作用 膀胱障害、骨髄抑制メトトレキサート 4-14mg/週 内服(関節リウマチの薬)副作用 肝障害、間質性肺炎シクロスポリン 3-5mg/kg/日 内服(移植、乾癬、ベーチェット病など)副作用 高血圧タクロリムス 0.075mg/kg/日 内服 間質性肺炎に保険適用あり副作用 腎障害、糖尿病ミコフェノレートモフェティル 1-2g/日 内服(移植、ループス腎炎に使用)副作用 骨髄抑制、消化管潰瘍
免疫グロブリン大量静注療法
400mg/kg/日 5日間点滴。免疫抑制剤使用困難な場合、嚥下障害・呼吸筋筋力低下など。効果短期的。2010年保険適用。副作用 血栓症、発熱、アレルギー反応
多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)における推奨治療法
http://www.aid.umin.jp/wp-aid/wp-content/uploads/2024/03/PMDMGL2020.pdf多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版)より薬物治療に関するクリニカル・クエスチョン(CQ)を抜粋した。
推奨の強さ
1:「実施する」ことを強く推奨する2:「実施する」ことを弱く推奨する(提案する)3:「実施しない」ことを弱く推奨する(提案する)4:「実施しない」ことを強く推奨する
CQ6 多発性筋炎/皮膚筋炎治療の第一選択薬は何か
推奨文:第一選択薬は、副腎皮質ステロイドである。(推奨度 1)
CQ7 妥当な副腎皮質ステロイドの初期投与量はいくらか
推奨文:多発性筋炎/皮膚筋炎の治療では、慣習的に体重 1 kg 当たりプレドニゾロン換算 0.75~1 mg で治療が始められている(推奨度 1)。若年性皮膚筋炎においては体重 1kg あたりプレドニゾロン換算 2 mg で治療が始められている(推奨度 2)。またステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン体重 1kg あたり 30 mg/日、最大量 1000 mg/日、3 日間)を考慮して良い(推奨度 1)。
CQ8 副腎皮質ステロイドによる治療によって、治療前に比べて、いったん萎縮した筋が回復することはあるか
推奨文:治療前に比べて、いったん萎縮した筋量が回復することは期待される。(推奨度 2)
CQ9 寛解後に副腎皮質ステロイドを中止することが可能か
回答:副腎皮質ステロイド中止が維持療法持続に比べて再燃率が高いか否かを示すデータはないが、一部の症例では副腎皮質ステロイド中止が可能である。(推奨度 2)
CQ10 免疫抑制薬の併用は、どのような症例で検討すべきか
推奨文:第一選択治療薬である副腎皮質ステロイドに治療抵抗性の筋炎に対して免疫抑制薬を併用することを推奨し(推奨度 1)、また、早期から副腎皮質ステロイド薬単独ではなく、メトトレキサート(MTX)、アザチオプリン(AZA)、タクロリムス(Tac)、シクロスポリン (CyA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)のどれかの免疫抑制薬を併用して治療することも提案する(推奨度 2)。若年性皮膚筋炎に対しては、副腎皮質ステロイドに早期より MTX を併用することを推奨する(推奨度 1)。
CQ11 免疫抑制薬の併用は副腎皮質ステロイドの早期減量を可能にするか
推奨文:副腎皮質ステロイドの早期減量には免疫抑制薬を併用する。(推奨度1)
CQ12 副腎皮質ステロイド以外に用いる免疫抑制薬は何か
推奨文:検討が行われている薬剤は、アザチオプリン(AZA)、メトトレキサート(MTX)、タクロリムス(Tac)、シクロスポリン(CyA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、シクロホスファミド(CPA)である。我が国で、よく使用されるのは、AZA、MTX(保険適応外)、Tac、CyA(保険適応外)、である。(推奨度1)
CQ13 治療抵抗性の症例では大量免疫グロブリン静注療法による治療を考慮すべきか
推奨文:治療抵抗性の多発筋炎/皮膚筋炎の治療に大量免疫グロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin: IVIG)を追加することを提案する。(推奨度 2)
CQ14 筋炎再燃の場合に選択される治療方法は何か
推奨文:筋炎再燃時には副腎皮質ステロイドを増量(0.5-1.0 mg/体重 kg)、または、免疫抑制薬、大量免疫グロブリン静注療法、生物学的製剤(リツキシマブ、アバタセプト、トシリズマブ、TNF 阻害薬)、血漿交換の追加または併用が行われている。(推奨度 2)
CQ15 間質性肺炎に副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬で治療する場合に日和見感染症対策は必要か
推奨文:間質性肺炎に副腎皮質ステロイド大量療法や免疫抑制薬を投与する際、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染症への対策が必要である。(推奨度 1)
CQ18 嚥下障害を伴う場合の治療法は何か
推奨:治療抵抗性の嚥下障害に対し大量免疫グロブリン静注療法は試みられてよい治療法である。(推奨度 2)
CQ19 多発性筋炎/皮膚筋炎に合併する間質性肺病変に対して、寛解導入治療として副腎皮質ステロイド及び各種免疫抑制薬は有用か?
推奨文:副腎皮質ステロイド治療を基本とし、早期から免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、シクロホスファミド)を併用することを推奨する。(推奨度1)
CQ20 心筋障害が合併する場合の治療法は何か
推奨文:高用量副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬を含む治療を提案する。(推奨度 2)
CQ21 皮膚症状のみの DM 患者や皮膚症状のみが遷延した DM 患者の治療法は何か
推奨文:皮膚症状のみに対しては、経過観察または副腎皮質ステロイド外用による局所治療を行ってもよい。(推奨度 2)著しい皮膚症状が存在する場合には、ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、あるいはタクロリムス、免疫グロブリン大量静注療法、あるいはダプソンによる全身的な治療を考慮してもよい。(推奨度 2)
CQ22 皮膚筋炎患者の石灰沈着に対する治療方法は何か
推奨文:標準的治療の後に残存する石灰沈着に対しては、低用量ワルファリン、塩酸ジルチアゼム、水酸化アルミニウム、ビスホスフォネート、プロベネシド、ガンマグロブリン、チオ硫酸ナトリウムの投与や外科的治療を考慮する。(推奨度 2)
CQ23 悪性腫瘍合併筋炎では、悪性腫瘍の治療とともに筋炎に対する治療を行うべきか
推奨文:多発性筋炎/皮膚筋炎の治療を待てる場合は、悪性腫瘍の治療をまず試みてよい。(推奨度1)
皮膚筋炎/多発性筋炎に合併する間質性肺炎対する治療法
「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020」より引用日本呼吸器学会・日本リウマチ学会 編集 メディカルレビュー社 刊
Multicenter Prospective Study of the Efficacy and Safety of Combined Immunosuppressive Therapy With High-Dose Glucocorticoid, Tacrolimus, and Cyclophosphamide in Interstitial Lung Diseases Accompanied by Anti-Melanoma Differentiation-Associated Gene 5-Positive Dermatomyositis
Arthritis Rheumatol 2020 72(3):488-498
Intensive Regimen of Combined Immunosuppressive Therapy
1.プレドニゾロン(PSL) | 初期量1mg/kg/day 4週間の後、2-4週毎に漸減 |
---|---|
2.タクロリムス(TAC) |
開始量:3mg以内/day12hr後の トラフ濃度10-12ng/mLを目標にする |
3.シクロホスファミド大量静注療法(IVCY) |
1~6回まで原則:2週毎初回投与量:500mg/㎡、漸増する。(10~14日後の白血球の底値が2000-2500/uLまたはIVCY前後で白血球が半減する程度の投与量まで用量を増加)7回目以降は4~8週毎合計10~15回続ける |
2014年から2017年の間に抗MDA5抗体陽性ILD合併皮膚筋炎を発症した症例(日本人26例)に対し、上記のようにPSL大量療法+TAC+IVCYの3剤併用療法を行った。対照群は2001年から2008年の間に抗MDA5抗体陽性ILD合併皮膚筋炎と診断され、PSL大量療法に加え、免疫抑制剤を段階的に1~3剤追加されていった治療群とした(n=15)。3剤併用群は対照群と比較し、6か月の生存率が89% vs 33%(p<0.0001)と有意に改善していた。
Efficacy of plasma exchange in anti-MDA5-positive dermatomyositis with interstitial lung disease under combined immunosuppressive treatment
Rheumatology 2020;59(11):3284-3292上記の3剤併用にても効果不十分な症例(上記の論文と同じグループによる報告)に対し、血漿交換(PE)を加えた場合の生存率を検討した。13例のうち、8例にPEを施行し、5例が生存し、3例が死亡したが、PEを施行しなかった5例は全例死亡した。
Efficacy of Glucocorticoids and Calcineurin Inhibitors for Anti-aminoacyl-tRNA Synthetase Antibody-positive Polymyositis/dermatomyositis-associated Interstitial Lung Disease: A Propensity Score–matched Analysis
J Rheumatol 2019;46:509-17抗ARS抗体陽性皮膚筋炎/多発性筋炎合併間質性肺炎患者に対し、PSL単独群とPSL+CNI(タクロリムス/シクロスポリン)併用群で比較した所、2年後のprogression-free survival (無増悪生存期間)は、 PSL単独群(41.7%)に比し、有意にPSL+CNI(タクロリムス/シクロスポリン)併用群(91.7%)で高かった。
皮膚筋炎/多発性筋炎に対する注目の治療法
Tofacitinib for refractory interstitial lung diseases in anti-melanoma differentiation-associated 5 gene antibody-positive dermatomyositis
Rheumatology 2018;57:2114-2119抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎に合併する間質性肺炎の3つの予後不良因子としては、フェリチン値が1000以上、肺のスリガラス状陰影が全領域に見られること、ステロイド、シクロスポリン、シクロホスファミドの3者併用療法中にも肺病変が悪化することの3点が挙げられる。IL-6, IL-15, IFNαなどの複数のサイトカイン産生活性化が、間質性肺炎の増悪に関与しているため、複数のサイトカインを抑えることのできるJAK阻害剤が有効な可能性がある。3者併用療法にトファシチニブを追加した所、生存率が高まった。ただし、トファシチニブ投与群では、5例全例にサイトメガロウイルスの再活性化が認められ、帯状疱疹も3例に認められた。そのほかにもウイルス感染症や細菌感染症が認められ、副作用対策として感染症の管理が重要であった。
Tofacitinib in Amyopathic Dermatomyositis–Associated Interstitial Lung Disease
N Engl J Med 381;2019:291-293この中国からの報告では、ステロイドにトファシチニブを追加した所、全例生存したが、フェリチン値が1000未満の例が多く含まれていることより、もともと予後の良い症例が多く含まれていた可能性がある。
アバタセプト、トシリズマブ、バリシチニブ、レナバサムの治験が現在行われている。
皮膚筋炎/多発性筋炎 の予後
5年生存率は60~90%であるが、近年、早期発見・早期治療が可能になったことに加えて新たな治療法の開発により本症の予後は更に改善中である。しかし、一部の症例は治療抵抗性であり、緩徐に筋萎縮が進行してQOLが障害される。本症の主な死因としては、悪性腫瘍、間質性肺炎、誤嚥性肺炎、心不全、感染症などが挙げられる。
筋炎の日常生活上の注意事項
1)活動期(発熱など全身症状や、筋症状の強い時期)は安静が原則である。2)関節の拘縮予防のため、関節の屈曲、伸展運動を一日数回行ってください。筋炎が鎮静化(CKが正常化)したら、長期の安静は廃用性筋萎縮をきたすので、筋力回復のためのリハビリテーションを行う。3)食事は高たんぱく、高カロリー食が良いとされている。4)増悪因子となる感染症、過労、外傷に注意してください。5)皮膚筋炎の場合、日光暴露(紫外線)は皮疹を増悪させるので必ず避けてください。6) 嚥下障害がある場合は誤嚥しないようにベッドの頭側を挙上させる。
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